「私は虚を突かれた思いがした」の意味とは?『こころ』の深層心理と真実
「私は虚を突かれた思いがした」の意味とは?『こころ』の深層心理と真実とはどのようなものなのか? 主要なファクトを丁寧に紐解いて紹介します。
文学史上で最も知られる用例が、夏目漱石が1914年に発表した長編小説『こころ』のクライマックスです。作品全体の構造を把握するために、まずは夏目漱石『こころ』のあらすじ詳細まとめを確認しておきましょう。
本作は「上 先生と私」「中 両親と私」「下 先生と遺書」の三部構成から成り立ちます。大学生の語り手「私」は、鎌倉の海岸で謎めいた知識人「先生」と出会い、惹かれていきます。先生は月に一度、雑司ヶ谷の墓地へ親友の墓参りに通いながら、世間を避けて鬱屈した隠遁生活を送っていました。父親の臨終に立ち会うため帰郷していた「私」のもとに届いたのが、先生からの分厚い遺書(「下」の手紙)です。そこには、明治の精神に殉じる覚悟とともに、若き日に犯した取り返しのつかない罪の告白が綴られていました。
問題の場面は、学生時代の先生が下宿先のお嬢さんに恋情を抱くなか、孤独と貧困に苦しむ親友のKを救おうと同居させた後の一幕です。ある冬の日、いつも自室に沈潜していたKが先生の部屋に歩み寄り、静かに切り出します。
「おれは、……おれは……」と言い淀んだ末、Kはお嬢さんに対する切なく純粋な恋心を打ち明けました。その瞬間、先生の脳裏を駆け巡ったのが「私は虚を突かれた思いがした」という痛烈な独白でした。それまで築いていた平穏が一瞬で消し飛び、心臓を直接握り潰されたような戦慄が走ったのです。