クーロン城の真実と現在|東洋の魔窟と呼ばれた九龍城砦の光と影

クーロン城の真実と現在|東洋の魔窟と呼ばれた九龍城砦の光と影の全体像を丁寧に掘り下げてご紹介します。

1970年代に入ると、限られた敷地の中で爆発的に増え続ける人口を収容するため、住民や建設業者による違法な無許可増築が乱立しました。建築基準法や消防法を完全に無視した鉄筋コンクリート造のビルが隙間なく連結し、最終的には地上14階建て、約350棟が一体化した単一の超巨大立体迷宮へと変貌を遂げました。

当時の詳細な実測断面図や写真家たち(宮本隆司氏やグレッグ・ジラード氏ら)が遺した内部写真アーカイブからは、常軌を逸した居住空間の全貌が読み取れます。啓徳(カイタック)空港に着陸する旅客機がビルすれすれを通過するため、高さ制限約45メートル(14階前後)で頭打ちとなった建物群は、横へと隙間なく押し固められ、下層階には太陽の光が一年中一筋も届かない「常夜の暗黒空間」を作り出していました。

迷路のように入り組んだ通路には、頭上を無数の水道管や違法配電線が蜘蛛の巣のように覆い、上層階から常に汚水が滴り落ちていました。しかし、その過酷な環境の内部には、驚くほど自己完結したひとつの都市社会が形成されていました。

  • 低層階・地下:無資格の歯科医院・町医者、魚肉団子(つみれ)やローストダックを製造する無認可食品工場、製麺所、雑貨店が密集。
  • 中層階:わずか数畳のスペースに2段ベッドや折りたたみ机を詰め込んだ一般住民の住居スペースや私設幼稚園、老人ホーム。
  • 屋上階:太陽光が注ぐ唯一の解放空間。子どもたちの遊び場であり、テレビアンテナが乱立する住民の憩いの場。

行政の公的サービスが届かない中、住民たちは自治組織「九龍城寨街坊福利事業促進会」を結成し、自前で井戸を掘り、私設の郵便配達員が入り組んだ迷宮の番地を網羅して郵便物を届けるなど、独自の相互扶助システムで日々の暮らしを維持していたのです。

井上 凛

井上 凛

シニアコンテンツプロデューサー

心身ともに健康で持続可能なライフスタイルをテーマに、最新のウェルネストレンドを発信中。

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