スイス安楽死制度で精神疾患は適用されるか?審査基準と厳格化の真相
スイス安楽死制度で精神疾患は適用されるか?審査基準と厳格化の真相の真相について、分かりやすい解説を詳しくお届けします。
まず整理しておかなければならないのは、スイスで認められている制度の法的定義です。一般に「安楽死」と総称されますが、オランダやベルギーのように医師が直接致死薬を注射する「能動的直接安楽死」は、スイス刑法において現在も明確に禁止されています。スイスで合法とされているのは、刑法第115条の規定に基づく「利己的な動機がない場合の自殺幇助(自死幇助)」です。致死薬(主にペントバルビタールナトリウム)を処方箋に基づき用意し、最後の投与スイッチを入れる、あるいは薬液を自ら飲み干す行為は、患者本人の手で行われなければなりません。
この枠組みにおいて、精神疾患を理由とする自死幇助は法的に認められているのでしょうか。結論から言えば、法的な門戸は開かれているものの、実務上の適用条件は極限まで狭められています。
その分岐点となったのが、2006年のスイス連邦最高裁判所判例です。この裁判で最高裁は、「重篤かつ治療不可能な難治性の精神障害による耐えがたい苦痛も、身体疾患による苦痛と同様に自殺幇助の対象になり得る」との画期的な判断を下しました。憲法上の自己決定権を根拠に、身体疾患と精神疾患の間に法的な差別を設けない姿勢を示したのです。
しかし、この司法判断は「精神疾患者が容易に自死を選べる」ことを意味しません。最高裁は同時に、身体疾患以上に厳格な前提条件を課しました。それが「長期間にわたり持続する確固たる死の意思」「すべての代替的治療を試みても効果がなかったこと(治療抵抗性)」、そして何よりも「本人が病気の影響を受けずに状況を客観的に評価できる判断能力(意思決定能力)を完全に有していること」の証明です。この高いハードルが、現実の現場において事実上の巨大な障壁として機能しています。