天然にがり使用禁止の噂はなぜ?規制の歴史と死亡事故の真相を追う

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「天然にがりが禁止されている」という言説は、単なるネット上のデマではありません。昭和から平成初期にかけての日本において、天然にがりは法律上、実際に豆腐の製造に使用することが禁じられていたという明確な事実があります。

時計の針を1950年(昭和25年)まで巻き戻すと、戦後の衛生環境改善と食品安全基準の近代化を進めていた厚生省(現・厚生労働省)は、食品衛生法に基づく食品添加物の指定制度を本格稼働させました。その際、海水から塩を採取した残余液である伝統的な天然にがりは、成分規格が曖昧でヒ素や重金属などの不純物が混入するリスクが排除できないとして、指定添加物のリストから除外されたのです。

この豆腐凝固剤規制により、豆腐職人が昔ながらの製法で天然にがりを用いることは法的に不可能となりました。代わりに普及したのが、化学的に純度を高めた「塩化マグネシウム」や、取り扱いが容易で大量生産に適した「硫酸カルシウム(すまし粉)」です。伝統的な製法を守ろうとする職人たちは地下で苦闘を強いられ、公の場では「にがり豆腐」の看板を下ろさざるを得ない時代が長く続きました。

事態が大きく動いたのは1995年のことです。製塩技術の飛躍的な向上と伝統食品見直しの機運が高まり、官民を挙げた品質基準の策定が進んだ結果、厚生省は「粗製海水塩化マグネシウム」の名称で天然にがりを食品添加物として正式に指定しました。半世紀に及ぶ規制緩和を経て伝統の味は合法的に復活を果たしたものの、当時の「にがり使用禁止」という強烈な記憶や行政措置の記録が、今なお形を変えてネット空間を漂い続けているのが噂の第1の正体です。

渡辺 美咲

渡辺 美咲

ガジェット&アプライアンスライター

心身ともに健康で持続可能なライフスタイルをテーマに、最新のウェルネストレンドを発信中。

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