怪談絵本『いるのいないの』トラウマの真相|最後の顔と結末を徹底考察
今注目を集めている 怪談絵本『いるのいないの』トラウマの真相|最後の顔と結末を徹底考察について、詳しいまとめを分かりやすく掲載しています。
物語の中盤、男の子はおばあさんの教えに抗えず、意を決して高い天井の梁の上を見上げてしまいます。そこに描かれていたのは、薄暗がりの中に浮かび上がる巨大な男の顔(天井の顔)でした。生気のない肌、大きく見開かれた目、無表情のままこちらをじっと見下ろすその存在は、怪談絵本における屈指の衝撃ビジュアルとして読者の脳裏に焼き付きます。
しかし、本作が真のトラウマと呼ばれる理由は、この梁の上の顔を発見した瞬間ではありません。物語が終焉を迎える最後のページ(見開き)にこそ、逃げ場を完全に塞ぐ戦慄の仕掛けが施されています。
一度その姿を見てしまった男の子は、恐怖のあまり「うえを みなけりゃ いいんだ」「したを むいて あるけば いいんだ」とおばあさんの言葉を反芻し、視線を足元へと落とします。見なければ、あいつはいないのと同じ。そうやって日常の平穏を取り戻そうと自分に言い聞かせ、読者が息を呑みながら次のページをめくった瞬間、視覚の暴力が炸裂します。
最後のページをめくると、そこに広がるのは梁の上ではなく、読者の顔の真前――わずか数センチメートルの距離まで迫り、歪んだ表情で見下ろしてくる大男の顔です。そして添えられる決定的な一言、「みてるよ」。
この演出の恐ろしさは、物理的な距離の完全な崩壊にあります。さっきまで遠い天井の梁にいたはずの怪異が、読者がページをめくるという能動的な動作を行った刹那、パーソナルスペースの内側へと瞬時に侵入しているのです。視線を逸らせば逃げられるという「おばあさんのルール」は完全に破綻し、相手は下を向いた男の子の頭上至近から、覗き込むように見つめていたという事実が突きつけられます。読者は絵本を閉じた後も、「自分の頭上数十センチのところに、今あいつがいるのではないか」という生理的恐怖から逃れられなくなります。