スイス安楽死制度で精神疾患は適用されるか?審査基準と厳格化の真相

スイス安楽死制度で精神疾患は適用されるか?審査基準と厳格化の真相についての最新情報をご紹介します。

身体疾患の場合、例えば末期がんや進行性の筋萎縮性側索硬化症(ALS)であれば、画像診断や病理検査、予後予測といった客観的マーカーが存在します。痛みの度合いや身体機能の喪失過程を医学的に証明することは比較的明瞭です。ところが、うつ病や双極性障害、統合失調症などの精神疾患においては、根本的な医療倫理のジレンマが横たわります。

医師や審査機関を苦悩させる最大の要因は、「死にたいという希死念慮そのものが、精神疾患の主要な症状である」という点です。うつ病の病態は、認知の歪み、絶望感、自己評価の著しい低下を引き起こします。本人が「これ以上生きる意味がない、死にたい」と切望していても、それは本人の自由意志による選択なのか、それとも脳の機能障害が言わせている症状なのかを完全に切り分けることは、現代精神医学をもってしても容易ではありません。

スイス医学アカデミー(SAMW)が策定し、スイス連邦医師会が承認している倫理ガイドライン(2018年改定およびその後の補足規定)では、自死幇助を行う医師に対して以下の極めて厳格な審査プロセスを義務付けています。

  • 耐えがたい苦痛の客観的裏付け:主観的な辛さだけでなく、複数の専門医が納得しうる客観的な苦難の存在。
  • すべての医学的治療の尽滅:薬物療法、精神療法、さらには電気痙攣療法(ECT)や最新の承認治療法など、考えうる標準的治療をすべて長年やり尽くし、なお改善しなかった実績。
  • 精神医学的鑑定の反復:独立した複数の精神科医による診断。一度の面談ではなく、数か月〜数年にわたる経過観察を通じて「一時的な気分の落ち込みや発作的な絶望」ではないことの確認。
  • 完全な判断能力の証明:疾患の渦中にありながら、自らの死の帰結、周囲への影響、治療の選択肢を論理的に理解・比較できる能力の保持。

もし、精神疾患の症状によって判断能力が曇っている患者に致死薬を処方すれば、医師は刑法上の殺人罪や嘱託殺人罪に問われる法的リスクを背負います。さらに、スイス国内の精神科医の間でも「精神科医療の使命は希死念慮の治療と自殺予防であり、自死を幇助することは根本的矛盾である」という倫理的反発が根強く存在します。結果として、要件をクリアする精神鑑定書を書いてくれるスイス国内の精神科医を見つけること自体が、砂漠で針を探すような難易度となっているのが実情です。

伊藤 翔太

伊藤 翔太

フード&トラベルライター

マネー知識やキャリア形成に役立つノウハウを、初心者にも分かりやすく解説するのが得意です。

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