伊東の川沿いに息づく昭和の幻影——木造3階建ての迷宮が今、感性鋭い旅人を惹きつけてやまない理由

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東海館の最大の魅力は、館内のどこを見渡しても同じ意匠が二つとして存在しない点にある。昭和初期、伊東屈指の一流大工たちが腕を競い合って造り上げた客室群は、まさに木造建築の実験場だった。黒檀、紫檀、タガヤサンといった希少な銘木が惜しげもなく使われ、天井や柱、長押(なげし)の納まり一つひとつに職人の誇りが滲み出ている。

圧巻なのは欄間(らんま)の彫刻だ。鶴や松、富士山といった縁起物をモチーフにしながら、部屋ごとに全く異なる立体的な透かし彫りが施されている。障子越しに差し込む柔らかな自然光が、床の間に落ちる影の濃淡を刻一刻と変えていく。かつての職人たちが計算し尽くした光の演出は、百年の時を経た現在も寸分の狂いなく機能している。

田中 結衣

田中 結衣

デジタルマーケティングコンサルタント

グルメと旅を愛するフリーライター。全国各地の隠れた魅力を独自の視点から紹介します。

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