名曲『夢追い酒』大ヒットの理由|渥美二郎の流し時代から現在
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栄光の頂点に立っていた渥美二郎を、突如として過酷な運命が襲います。1989年(平成元年)、37歳の若さにして宣告されたのは、初期段階を過ぎた胃がんでした。
当時は患者本人への告知すらタブー視されていた時代でしたが、医師から事実を直接告げられた瞬間の衝撃は計り知れないものでした。病室での手記には、「頭の中が真っ白になり、明日の命すら見えなくなった」という生々しい絶望が記録されています。手術では胃の3分の2を切除。腹筋を大きく切り裂いたことで、歌手の命である発声の土台が完全に崩れ去りました。
退院後、声を出そうとしても掠れた息が漏れるばかりで、歌唱はおろか日常の会話すら満足にできない日々が続きました。一時は芸能界引退、さらにはネット上や一部週刊誌で「死亡説」や「重篤説」といった根拠のない憶測が飛び交う事態となりましたが、渥美は決して諦めませんでした。妻の献身的な支えを受けながら、腹筋を補うための過酷なリハビリと独自の発声トレーニングを数年間継続。失われた胃の機能を補うため、1日の食事を数回に細かく分ける徹底した体調管理を自らに課したのです。
死の淵から生還した渥美は、自らの闘病経験を隠すことなく公表し、がん患者を支援するチャリティコンサートや骨髄バンク推進の活動へ積極的に身を投じるようになりました。病魔という試練を経て、彼の歌声にはかつての哀愁に加え、「生きることへの深い祈り」という新たな厚みが宿るに至ったのです。