ナウシカ名曲の真実|主題歌が劇中で流れない理由と久石譲の軌跡

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日本のアニメーション史において「最も有名な主題歌でありながら、本編で1秒も流れない曲」の筆頭が、安田成美さんの歌うシングル『風の谷のナウシカ』(作詞:松本隆、作曲:細野晴臣)です。劇場版のオープニングを飾ったのは重厚なインストゥルメンタルであり、感動的なラストシーンからエンドロールにかけて流れたのも久石譲氏が作曲したシンフォニックな名曲『鳥の人』でした。

この異例の事態を引き起こした背景には、映画制作の実質的なプロデューサーを務めた高畑勲氏と宮崎駿監督による、徹底した作家主義が存在していました。

当時、映画の製作母体であった徳間書店は、自社のアニメ雑誌『アニメージュ』の知名度を活かした一大メディアミックス戦略を展開。約7,500名が参加した「風の谷のナウシカ シンデレラグランプリ」で初代王冠に輝いた当時16歳の安田成美さんを前面に押し出し、レコード会社(徳間音楽工業)と連動した大規模なプロモーションを計画していました。徳間書店側としては、この楽曲を映画本編のエンドロールに配置し、テレビ歌唱やラジオ露出と一体化させてメガヒットを狙う青写真を描いていたのです。

しかし、高畑勲氏の判断は冷徹そのものでした。当時の制作手記や関係者の証言によると、高畑氏は徳間書店幹部に対して「ナウシカという過酷な運命を背負った少女の叙事詩に、現代的なアイドル歌謡曲を被せることは作品の死を意味する」と猛反発。映画のエンディングは観客がナウシカの旅立ちと思想を胸に反芻する極めて神聖な時間でなければならず、歌謡曲の甘い歌詞(「愛の光」「キス」といったポップス的言葉遣い)が入り込む余地は皆無であると主張し、スタジオ上層部と激しい衝突を繰り広げました。

宮崎監督もまた高畑氏の姿勢を全面的に支持したため、最終的に徳間書店側が折れる形で「映画本編には使用せず、テレビCMや予告編、各種イベントでのみ使用する“シンボルテーマソング”」という前代未聞の落としどころが策定されました。これが、主題歌が劇中で一切流れなかった歴史的真相です。

なお、当時の安田成美さんの歌唱力に対しては、世間から「音程が不安定」「初々しすぎる」といった賛否両論の評判が巻き起こりました。安田成美さん自身も後年のテレビ番組や回顧録のなかで「歌うことが本当に怖くて、プレッシャーに押しつぶされそうだった」と当時の苦悩を率直に告白しています。しかし、40年以上が経過した現在では、その飾らない朴訥な歌声が細野晴臣氏のエキゾチックなテクノサウンドと絶妙な調和を見せ、昭和歌謡カルチャーを象徴する伝説的名曲として国内外のシティポップ/シンセポップファンから熱烈な再評価を受けています。

佐々木 一輝

佐々木 一輝

ビジネス戦略アナリスト

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。

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