52ヘルツの鯨の現在と正体|世界で最も孤独な鳴き声の真実
52ヘルツの鯨の現在と正体|世界で最も孤独な鳴き声の真実に関する注目トピックを分かりやすく解説します。関心のある方は必見です。
「世界で最も孤独な鯨」という切ない物語は、作り話ではなく軍事探査の副産物として幕を開けました。発端は、アメリカ海軍が旧ソビエト連邦の潜水艦を探知するために太平洋全域へ張り巡らせていた極秘水中聴音システム「SOSUS(音響監視システム)」です。冷戦終結に伴い機密指定が一部解除されたことで、ウッズホール海洋研究所(WHOI)の海洋生物学者ウィリアム・ワトキンス(William Watkins)博士らの研究チームがこの膨大な海洋探査の音声データ解析に着手しました。
そこで発見されたのが、52Hzという前例のない周波数で繰り返される規則的なシグナルでした。人間の耳にはコントラバスの最も低い音域(ほぼG1=ソの音)として聴こえるこの声は、一般的なシロナガスクジラ(10〜20Hz)やナガスクジラ(20Hz前後)よりも遥かに甲高く、海洋生物学者たちを驚愕させました。
ワトキンス博士らは1992年から本格的な追跡を開始し、1989年から2004年にかけて毎年8月から翌年2月にかけてアラスカ沖のベーリング海からカリフォルニア州、ハワイ諸島北方へと南下する明確な回遊パターンを突き止めました。しかし、12年以上に及ぶ追跡調査の中で、このクジラが他のヒゲクジラの群れと行動を共にしたり、他の鳴き声と掛け合ったりした記録は一度たりとも確認されませんでした。これが「世界で最も孤独」と称される所以です。