東日本大震災の「赤い月」真相|地震前兆説と大気散乱の科学的検証
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大地震の前後に報告されるいわゆる「宏観異常現象」には、井戸水の濁り、動物の異常行動、地震雲、そして発光現象など多岐にわたる報告が含まれます。東日本大震災でも、本震の直前や余震活動の最中に「空が光った」「赤い光が走った」という地震発光現象(Earthquake Light: EQL)の目撃証言が複数寄せられました。
地震発光現象そのものは、断層にかかる超高圧によって岩石中のペルオキシ欠陥が励起され、正孔キャリアが地表に移動して空気を電離させる現象や、ピエゾ圧電効果による放電現象として、地球物理学の領域で真面目に研究されています。しかし、これらは地表付近や雲底において数秒から数分間、閃光や帯状の光として観測されるものであり、宇宙空間にある天体としての月そのものの光学特性を変質させる力はありません。地上で起きた発光現象の記憶と、大気の影響で赤く見えていた月の記憶が、当事者の脳内で混同されて語り継がれたケースが目立ちます。
また、オカルト系コミュニティやSNSで頻繁に拡散されるのが「ブラッドムーン(皆既月食)」や「スーパームーン」と大地震の連動説です。事実として、東日本大震災が発生した約1週間後の2011年3月19日、月が地球に極めて近い軌道を通過する「エクストリーム・スーパームーン」が観測されました。天文学的には、月と地球の距離が縮まることで起潮力(潮汐力)が最大化するため、「月の引力がプレート境界の歪みを限界に達させ、本震を誘発したのではないか」という仮説が一部で熱狂的に支持されました。しかし、東京大学地震研究所などの研究チームによる統計的検証によれば、潮汐力による応力変化は断層を破壊する力のごく一部(トリガーの補助的要素)に過ぎず、大地震の発生時期を特定できる規則性は見出されていません。天文学的な位置関係と、大気による月の赤化を結びつける主張は、科学的根拠を欠く飛躍と言わざるを得ません。