黄泉の国の恐るべき正体とは?イザナギが愛妻から逃走した戦慄の真相
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神話の世界の出来事と思われがちなこの脱走劇ですが、古事記には驚くべき具体的な地理情報が記されています。現世と黄泉の国の境目である「黄泉比良坂(よもつひらさか)」について、「出雲国の伊賦夜坂(いふやさか)なり」と明記されているのです。
この記述の舞台こそ、現在の島根県松江市の伝承地(松江市東出雲町揖屋)に他なりません。JR山陰本線の揖屋駅から車で数分、山あいの静謐な雑木林に、今もその現場が残されています。
現地を訪れると、うっそうとした木立に囲まれた石畳の坂道が現れます。その奥深くに鎮座しているのが、イザナギが死者の追撃を遮断するために据え置いた巨大な岩盤――伝承の「千引の岩(ちびきのいわ)」です。千人がかりでなければ動かせないほどの巨石によって、生者の世界と死者の世界は永遠に分断されました。
この岩の前で、夫婦神は最後の絶縁宣言を交わします。「愛する妻よ、これからは離縁しよう」と告げるイザナギに対し、イザナミは「愛しい夫よ、あなたがそうするなら、あなたの国の人間を一日に千人絞め殺しましょう」と言い放ちます。イザナギは「ならば私は一日に千五百人の産屋を建てよう」と返しました。この問答によって、人間の「一日に千人が死に、千五百人生まれる」という生死の秩序が定まったとされています。
現在、この黄泉の国の入り口とされる場所には、一風変わった木製のポストが設置されています。亡くなった大切な人や先祖宛ての手紙を投函するための「天国へのポスト」です。現地を訪れた参拝者からは、「観光地というより、足を踏み入れた瞬間に空気が数度下がるような厳粛さがある」「静まり返った森の中で、自分が境界線の上に立っている感覚を覚えた」といったリアルな声が寄せられています。
さらに、黄泉比良坂からほど近い場所に鎮座するのが、式内社である揖夜神社(いやじんじゃ)です。主祭神としてイザナミを祀るこの古社は、古くから黄泉の国と現世をつなぐ結界として崇敬を集めてきました。本殿の背後に広がる深い杜は禁足地のような威容を放ち、訪れる者に神話が単なる創作ではなく、土地の記憶として現代まで地続きであることを無言のうちに語りかけています。