楽譜の歴史と五線譜の謎|音の記録はどう進化してきたのか
楽譜の歴史と五線譜の謎|音の記録はどう進化してきたのかにまつわる興味深い視点を分かりやすく発信ます。
「楽譜を発明した人物は誰なのか」という問いに対して、歴史学的な観点から言えば特定の単独発明者は存在しないというのが正確な真相です。人類が音を記録しようとした最古の試みは、文字の発祥とほぼ同時期にまで遡ります。
現存する最古の楽曲記録として知られるのは、紀元前1400年頃の古代メソポタミア(現在のシリア北部・ウガリット遺跡)で発掘された粘土板に刻まれた「フルリ人の賛歌(ウガリットの賛歌)」です。ここでは楔形文字を用いて竪琴の調弦や音程の関係が記されていました。さらに完全な形で残る世界最古の楽曲とされるのが、古代ギリシャ(紀元前1〜2世紀頃)の「セイキロスの墓碑銘」です。墓石に刻まれた歌詞の行間にギリシャ文字を割り当て、音の高低と長短を緻密に指示していました。
古代の記譜法は、音楽のすべてを精密に記録するものではなく、「すでにメロディを知っている者が記憶を呼び起こすための補助装置(備忘録)」としての性格が極めて強いものでした。この「音を完全に固定したい」という強い要請が生まれるまでには、中世ヨーロッパにおける宗教的・政治的な転換点を待つ必要がありました。