心膜炎の心電図と心筋梗塞の鑑別法|広範なSt上昇とPr低下の真相
心膜炎の心電図と心筋梗塞の鑑別法|広範なSt上昇とPr低下の真相の注目ポイントを丁寧に掘り下げてご紹介します。
急性心膜炎の心電図は静止した1枚の絵ではなく、時間経過とともにドラマチックに姿を変えます。これを体系化したものが「心膜炎の心電図4期分類」です。患者が受診したタイミングが発症から何日目かによって、観察される波形が全く異なる点に留意しなければなりません。
【第1期:発症直後〜数日】
典型的な急性期像。aVRを除く広範な誘導で「上向き凹型のST上昇」と「PR部分の低下」、aVRでの「PR上昇」が出現します。T波はまだ陽性を保っており、多くの患者がこの激しい胸痛のタイミングで医療機関を受診します。
【第2期:発症数日後〜1週間程度】
移行期。持ち上がっていたST部分が徐々に基線へと復帰し、PRの偏位も正常化します。同時にT波の振幅が低下し、平坦化へと向かいます。この時期に初めて心電図を記録すると、一見「正常に近い心電図」に見えてしまい、見逃しのリスクが生じます。
【第3期:発症後2〜3週間】
逆転期。STが基線に戻った後、ST上昇を認めていた誘導で「広範な陰性T波(T波の逆転)」が出現します。心筋梗塞と異なり、壊死を示す異常Q波は出現しません。
【第4期:発症後数週間〜数ヶ月】
回復期。陰性化していたT波が徐々に立ち上がり、元の正常な波形へと戻ります。一部の慢性心膜炎へ移行する例を除き、心電図は完全に治癒します。
また、炎症に伴って心嚢液貯留が生じた場合、心電図には別の物理的変化が加わります。心膜腔内に液体が大量に溜まることで電気抵抗が増大し、全誘導でQRS波の振幅が小さくなる「低電位差(肢誘導で5mm未満、胸部誘導で10mm未満)」が出現。さらに、液体の中で心臓がプカプカと揺れ動く(スウィングハート)ことで、1拍ごとにQRS波の高さや軸が交互に変動する「電気的交互脈(Electrical alternans)」が見られるようになります。これは心タンポナーデ切迫を告げる極めて危険なサインです。