カニバリズムとは何か?極限心理と歴史的事件から解くタブーの真相

カニバリズムとは何か?極限心理と歴史的事件から解くタブーの真相とはどのようなものなのか? 背景や要点を整理してお届けします。

カニバリズムが単なる道徳や宗教の規範にとどまらず、人類全体で厳格なタブーとなった背景には、強力な生物学的・医学的必然性が存在します。その決定的な証拠が、20世紀にパプアニューギニアで発見された致死性の脳疾患「クールー病」です。

食人文化と儀式が生んだ悲劇

パプアニューギニアの高地に暮らすフォレ族には、亡くなった親族の遺体を調理して分け合う食人文化と儀式が受け継がれていました。「遺体を大地に埋めて虫に食わせるより、愛する家族の肉体に戻すほうが温かい」という追悼の情念に基づく儀式でしたが、1950年代に入ると、手足の震えから始まって歩行困難、認知障害に陥り、発症後1年以内に100%死亡する謎の奇病(クールー病)が部族内で爆発的に流行しました。

米国出身の医師ダニエル・カールトン・ガジュセック博士らの粘り強い現地調査により、クールー病の原因は細菌やウイルスではなく、遺体、特に感染者の脳組織を摂取することによって媒介される異常プリオンタンパク質であることが突き止められました(ガジュセック博士はこの功績で1976年にノーベル生理学・医学賞を受賞)。

クールー病とプリオンの恐るべき特性

プリオン病は、狂牛病(BSE)やヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)と同系統の伝達性海綿状脳症です。ネット上の言説では「人肉も十分に加熱調理すれば安全なのではないか」という誤解が散見されますが、これは医学的に明白な間違いです。

  • 異常プリオンは熱に極めて強い:通常の煮沸や加熱はもちろん、600度以上の高温で完全に灰化するか、特殊な高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)を長時間行わなければ病原性が失われません。通常の調理では感染力を維持したまま体内に入ります。
  • 数十年におよぶ潜伏期間:感染してから発症するまでの潜伏期間は5年から、最長で50年以上に及ぶケースが確認されています。
  • 種内感染の効率性:異種間のプリオン感染には「種の壁」が存在しますが、同種間(人間から人間)の摂取では感染効率が劇的に跳ね上がります。

進化人類学の視座に立てば、同種を捕食する習慣を持つ集団は、プリオン病の蔓延によって自滅する淘汰圧にさらされてきました。私たちが人肉食に対して抱く生理的な嫌悪感や文化的禁忌は、人類が種として生き残るために獲得した進化論的な生体防御機構であると言えます。

池田 達也

池田 達也

マネー&キャリアエディター

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。

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