本谷有希子の芥川賞『異類婚姻譚』徹底解剖!異色経歴と現在の評価
本谷有希子の芥川賞『異類婚姻譚』徹底解剖!異色経歴と現在の評価にまつわる役立つ知識を詳しく紐解きます。
2016年1月、通算4度目のノミネートとなった『異類婚姻譚』が第154回芥川賞を受賞しました(滝口悠生氏の『死んでいない者』と同時受賞)。過去3回の落選を経て、選考委員を満場一致に近い形で唸らせた本作の魅力と、その背後にある構造的強度はどこにあったのでしょうか。
日常に潜む侵食と変容を描く『異類婚姻譚』のあらすじ
主人公の専業主婦・サンは、結婚生活に大きな不満があるわけでもなく、穏やかで退屈な日常を送っていました。しかしある日、ふと鏡を見た彼女は、「自分の顔が夫の顔にそっくりになってきている」という不気味な違和感に気づきます。夫は帰宅するとテレビの前でただ口を開けて餌を待つ生き物のように振る舞い、近所の住人たちもまた、奇妙な形態変化を遂げていました。人間と異界の存在が契りを結ぶ日本の古典説話「異類婚姻譚」のモチーフを現代の郊外住宅地にスライドさせ、夫婦という最も身近な他者が同化し、侵食し合っていく恐怖と滑稽さを軽妙な筆致で描き出しています。
芥川賞選評から読み解く「絶賛の根拠」
当時の芥川賞選考会において、歴戦の選考委員たちが口を揃えて評価したのは、「毒気の洗練」と「寓話としての構築力の高さ」でした。かつての本谷作品に見られた剥き出しのトゲや過剰な自意識の暴走が、本作では見事にコントロールされ、完成度の高い寓話的エンターテインメントへと昇華されていた点が高く評価されました。
選考委員の山田詠美氏は選評で、日常の倦怠と不条理をさらりと描くユーモアのセンスを激賞し、川上弘美氏も現代の夫婦関係が抱える曖昧な恐怖を寓話として着地させた手腕を称えました。それまでの「激しい感情のぶつかり合い」から「静かに足元が崩れていくような不条理」への作風の進化が、決定打となったのです。