閉店の「蛍の光」は実は別曲?三越が生んだ歴史と退店の心理効果を解剖
閉店の「蛍の光」は実は別曲?三越が生んだ歴史と退店の心理効果を解剖の背景について、専門知識を基に徹底解説します。
多くの買い物客が「あ、蛍の光だ」と認識している閉店音楽ですが、音楽理論およびレコード史の観点から検証すると、決定的な事実に行き当たります。日本の商業施設で半世紀以上にわたり流され続けている音源の多くは、スコットランド民謡をベースにしながらも、学校教育で親しまれる「蛍の光」とは構造が異なる『別れのワルツ』という独立した楽曲です。
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両者の決定的な差異は「拍子(リズム)」にあります。小中学校の卒業式や音楽の教科書で歌われる「蛍の光」は、行進曲や斉唱に適した「4拍子(4分の4拍子または4分の2拍子)」で演奏されます。対して、百貨店などのフロアに流れるあの物悲しく揺れるメロディは「3拍子(4分の3拍子)」の優美なワルツです。
この3拍子バージョンが誕生した背景には、名作映画と昭和を代表する天才作曲家の存在がありました。1940年に公開された米英合作映画『哀愁』(原題:Waterloo Bridge、ヴィヴィアン・リー主演)の劇中で、クラブの消灯時間に伴い楽団がスコットランド民謡『オールド・ラング・サイン(Auld Lang Syne)』をワルツ調で演奏する印象的な別れの場面が登場します。戦後、この映画が日本で爆発的なヒットを記録した際、日本コロムビアからレコード化するにあたって編曲を担当したのが、連続テレビ小説『エール』のモデルとしても知られる古関裕而(こせき・ゆうじ)氏でした。
古関氏は劇中のアレンジを見事に採譜・再構成し、哀愁漂う管弦楽の『別れのワルツ』を完成させました。つまり、商業施設で鳴り響いているのは、伝統的な唱歌ではなく、昭和の巨匠が銀幕の感動を日本人の琴線に合わせて仕立て直した名アレンジなのです。