作家・佐多稲子の波乱に満ちた生涯と代表作が放つ真価を徹底解剖
作家・佐多稲子の波乱に満ちた生涯と代表作が放つ真価を徹底解剖に関する深掘り記事を分かりやすく解説します。関心のある方は必見です。
佐多稲子の名を一躍世に知らしめたのが、1928年(昭和3年)の処女作『キャラメル工場から』です。当時の筆名は「窪川いね子」でした。
本作の主人公・おときは、貧困に喘ぐ家庭を助けるため、高等小学校を辞めてキャラメル工場に働きに出ます。重労働と低賃金、甘いキャラメルの匂いに満ちた作業場で、包装紙を素早く包む作業に追われる少女工員たちの姿が、冷徹な観察眼と共感に満ちた視線で綴られます。
誕生のきっかけは、同人雑誌『ロバ』の仲間であった中野重治や堀辰雄、そしてのちに夫となる窪川鶴次郎からの強い勧めでした。中野重治は、彼女がぽつりぽつりと語る工場時代の生々しい体験談を聞き、「それをそのまま文字にしなさい」と背中を押したと伝えられています。
当時のプロレタリア文学は、観念的なマルクス主義理論を振り回すインテリ男性主導の作品が目立っていました。そのなかにあって、文字通りの労働現場の匂い、手荒れ、疲れ切った肉体の実感をそのまま切り取った彼女の作品は、運動内部のみならず文壇全体に強い衝撃を与えたのです。