ディストーションとは?歪みの違いや名機・音作りの極意をプロが徹底解説
ディストーションとは?歪みの違いや名機・音作りの極意をプロが徹底解説について押さえておきたい 事実を厳選して解説いたします。
音楽用語として定着している「ディストーション(Distortion)」ですが、本来の英単語は「ゆがみ」「ねじれ」「変形」を意味する一般的な名詞です。工学や物理学の世界では、信号や形状が本来の姿から崩れてしまう現象全般を指し、その代表例が光学におけるカメラレンズの歪曲収差です。
広角レンズで撮影した写真の四隅が外側に樽のように膨らんだり(樽型歪曲)、望遠レンズで中央が引っ張られたように凹んだり(糸巻き型歪曲)する現象は、光学技術者にとって徹底的に排除すべき物理的な「エラー」です。レンズ設計者は何枚もの特殊ガラスを組み合わせ、非球面レンズを導入して幾何学的な歪みをゼロに近づける努力を続けてきました。音響機器の歴史においても、元来アンプ開発者たちの悲願は「入力された音を歪ませず、忠実に出力する(ハイ・フィデリティ=Hi-Fi)」ことでした。
ところが、ロックミュージックの歴史は、この「物理的エラー」を「芸術的表現」へと逆転させました。1960年代のギタリストたちが機材の過大入力による歪みを意図的に鳴らし始め、電気回路の限界を超えた歪曲現象をポジティブなエネルギーへと転換したのです。光学の世界では写真編集ソフトで徹底的に補正・消去される「ディストーション」が、音楽の世界では人間の情動を震わせる最高の武器として愛され続けている事実は、テクノロジーと人間の感性が織りなす極めて興味深いパラドックスといえます。