漫画家・山本直樹の現在と狂気の軌跡|映画化と名作の深層を暴く
漫画家・山本直樹の現在と狂気の軌跡|映画化と名作の深層を暴くの重要ポイントをご紹介します。専門的な知識が詰まっています。
山本直樹の経歴を語るうえで避けて通れないのが、1980年代初頭の成年コミック界に激震をもたらした別名義「森山塔(もりやまとう)」の存在です。早稲田大学教育学部国語国文学科に在学中、当時過激な劇画タッチや濃厚な肉体描写が主流だったエロ漫画の世界に、突如としてスマートで乾いた線画を持ち込みました。
彼が持ち込んだのは、当時のニューウェーブ漫画にも通じる、淡々とした日常のスケッチでした。男女が汗臭く絡み合う情念の世界ではなく、どこか気だるく、シニカルで、しかしどうしようもなく生々しい性器や体液の感触を、ポップですらある軽やかなペンタッチで描いたのです。この逆説的なリアリズムは当時のサブカルチャー少年たちを熱狂させ、「エロ漫画を進化させた最大の天才」と評されました。
その後、一般青年誌へ進出するにあたり本名の「山本直樹」を使用し始めますが、両名義の間に本質的な断絶はありません。インタビューや過去の対談において本人が明かしているように、名義の違いは掲載媒体のコードや読者層への便宜的な区分に過ぎず、底流にある「冷徹な人間観察」という主題は完全に同一のものです。日常と異常の境界線をいとも簡単に飛び越えてしまう筆力は、まさに森山塔時代の徹底した描写訓練と解体作業から培われたものでした。