ウォン・カーウァイ徹底解剖|新作『繁花』から名作配信・映像美まで
ウォン・カーウァイ徹底解剖|新作『繁花』から名作配信・映像美までの注目ポイントを分かりやすくまとめてご紹介します。
ウォン・カーウァイの作品が一目でそれと分かる理由には、卓越したスタッフワークと計算され尽くした技法が存在します。最大の要因は、盟友である名撮影監督クリストファー・ドイル(Christopher Doyle / 杜可風)、そして美術・衣装・編集を一手に引き受ける天才ウィリアム・チョン(William Chang / 張叔平)の三位一体によるケミストリーです。
視覚表現における最大のトレードマークが、「ステップ・プリンティング(Step Printing)」と呼ばれる撮影・現像技法です。毎秒8コマや12コマなどの低速度(アンダークランク)でシャッターを切り、後から光学現像やデジタル処理で同じフレームを複数回焼き増して標準の24コマに戻す手法です。これにより、被写体の動きに残像のようなブレと独特の浮遊感が生まれ、街の喧騒の中で孤独な主人公だけが切り離されているような心理描写を映像そのもので表現することに成功しました。
さらに、ウィリアム・チョンが創り出す色彩設計(深みのあるエメラルドグリーン、くすんだイエロー、妖艶な真紅)と、あえて人物の手前に格子や窓枠、雨滴を配置する遮蔽構図(障害物越しに覗き見るようなカメラワーク)が、観る者に濃密な親密さと切ない距離感を与えます。時間を刻む時計のクロースアップや賞味期限のメタファーが繰り返し登場するように、彼は「二度と戻らない一瞬の記憶」を映像として定着させる天才なのです。