乙羽信子の生涯と愛の真実|新藤兼人との絆と散骨の島に眠る最期
乙羽信子の生涯と愛の真実|新藤兼人との絆と散骨の島に眠る最期を徹底追究! 知っておきたい トピックの裏側を分かりやすく展開します。
1990年代初頭、乙羽信子の身体は人知れず深刻な病魔に蝕まれていました。公表された死因は肝細胞がん(肝臓がん)。かつて罹患していた肝炎から進行したもので、1993年春に精密検査を受けた時点で、病状はすでに根治が極めて困難な末期段階に達していました。
当時、日本において本人への末期がん告知はまだ一般的ではありませんでしたが、激しい倦怠感と腹水、黄疸の兆候に、鋭敏な女優である乙羽が自らの死期を悟らないはずはありませんでした。新藤兼人はその事実を直視し、彼女の最後の命の灯火を銀幕に焼き付ける決断を下します。それが映画『午後の遺言状』のシナリオ執筆でした。
長野県蓼科の高原別荘を舞台に、老境を迎えた女性たちの友情と老い、生と死をユーモアと哀感で描いた本作。乙羽が演じたのは、杉村春子演じる大女優の別荘番を務める認知症の老女・豊子役でした。撮影現場では医師が待機し、腹水を抜きながらの過酷を極めたロケとなりました。共演の杉村春子や朝霧鏡子ら往年の名女優たちが息を呑むなか、カメラが回った瞬間に見せる乙羽の眼光と動きは、重病者であることを微塵も感じさせない鬼気迫るものでした。
撮影が無事クランクアップした直後、乙羽は東京都内の病院に緊急入院。映画の完成と公開を待たず、1994年12月22日、愛する新藤兼人に看取られながら70年の生涯を閉じました。死後、本作における名演に対して第19回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞およびブルーリボン賞助演女優賞が追贈され、映画は同年のキネマ旬報ベスト・テン第1位をはじめ数々の映画賞を独占。自らの肉体を削り取ってフィルムに捧げた伝説の絶筆となったのです。