最後の晩餐の意味とは?裏切りと構図の謎を美術記者が徹底解明
最後の晩餐の意味とは?裏切りと構図の謎を美術記者が徹底解明とはどんな影響があるのか? 主要なファクトを整理してお届けします。
大衆文化やエンターテインメント小説、特に映画化もされたベストセラーの影響により、『最後の晩餐』には数多くの陰謀論やオカルト的解釈が付きまとってきました。代表的な2つの謎について、客観的な美術史研究に基づき真相を検証します。
1. 「宙に浮いたナイフを持つ手」の正体
「食卓の影から持ち主のいない謎の手が現れ、ナイフを握りしめている」という噂は、ネット上でも根強く語られてきました。しかし結論から言えば、この最後の晩餐 ナイフを持つ手は、キリストの右隣に座る筆頭使徒ペテロの右手です。
英国ロイヤル・コレクションに所蔵されているレオナルド直筆の準備素描(ドローイング)を精査すると、ペテロが右手を手首をひねるような形で腰の後ろに回し、パンを切るための小型ナイフを握っている構図が明確に確認できます。ペテロはこの直後、ゲツセマネの園でキリストが捕縛される際に大祭司の従者の耳を切り落とすという短気で血気盛んな性格の持ち主です。裏切り者の存在を聞いて激昂し、思わず立ち上がってヨハネの肩を揺すった拍子に、ナイフを持つ手首が不自然な角度で見えているに過ぎません。歴代の拙劣な補筆によって手首の筋肉のつながりが曖昧になり、「誰の手でもない怪奇現象」として誤認されたのが真相です。
2. 「ヨハネは実はマグダラのマリア」という説の誤謬
もうひとつの巨大なトピックが、キリストの左隣(画面向かって右隣)にいる人物の正体です。優美で女性的な容貌、伏せられた目元、キリストと対照的な赤と青の衣装のコントラストから、最後の晩餐 マグダラのマリア説が唱えられ、小説を端緒とするダ・ヴィンチ・コードの真相として広く消費されました。
しかし、当時のルネサンス期フィレンツェにおける絵画の図像学(イコノロジー)を知れば、このヨハネの正体に疑問の余地はありません。使徒ヨハネは十二使徒の中で最も若く、キリストが最も愛した弟子とされており、同時代の絵画において「髭のない美青年」「女性的な優美さを持つ姿」として描くことが厳格なお約束(定型)でした。同じレオナルドの手による『洗礼者ヨハネ』を見ても明らかなように、ダ・ヴィンチの作風そのものが両性具有的な中性的美を特徴としています。
もしこの人物がマグダラのマリアだとすれば、十二使徒のうち重要な一人であるヨハネが画面から消えてしまい、使徒が十一人しかいなくなってしまいます。教義的にも発注者である修道院の意向としても、そのような背教的描写が許容される余地は一切ありませんでした。