モズの早贄はなぜ起きる?獲物を串刺しにする理由と衝撃の科学的真相
モズの早贄はなぜ起きる?獲物を串刺しにする理由と衝撃の科学的真相に関する基本知識を徹底的にまとめました。要点を確実におさえることができます。
しかし、獲物を解体するためだけであれば、その場で食べ尽くせばよいはずです。実際には、原型をとどめたまま冬枯れの枝に残される獲物が数多く存在します。鳥類の生態において、この「貯食行動」がいかなる適応的意義を持つのかは、長年にわたり動物行動学者たちの議論の的となっていました。「単なる冬越しの食糧庫」という説が長らく通説とされていましたが、その常識を根底から覆したのが、大阪市立大学大学院(現・大阪公立大学)の西田有佑特命講師と遠藤知二教授らによる研究グループです。
2019年、国際学術誌『Animal Behaviour』に掲載されたこの研究は、モズの生態に関する数十年来の謎に決定的な科学的解明をもたらしました。研究グループは、大阪府内の緑地においてモズの個体群を長期にわたり詳細に追跡調査し、オスの早贄の消費パターンと繁殖行動の相関を徹底的に検証したのです。
調査の結果、秋に作られた早贄の大部分は、最も気温が下がり餌となる生物が激減する1月から2月の厳冬期に消費されている実態が突き止められました。さらに驚くべきは、その後の行動との連動性です。厳冬期に早贄をたっぷり食べて栄養状態を保ったオスは、1月下旬から始まるモズの求愛行動において、歌(求愛歌)のテンポを驚異的に速めることが判明しました。
野外実験において、研究チームが意図的にオスの早贄を取り去る処置を行ったところ、早贄を奪われたオスは歌の音節速度(シラブルレート)が低下し、求愛歌のクオリティが著しく劣化しました。一方で、早贄をしっかり消費できたオスは高速でキレのある美声を響かせ、森にやってくるメスを迅速に魅了したのです。観察されたペアリングの結果、早贄を消費して素早く歌えたオスは、そうでないオスに比べて圧倒的に早い時期にメスとつがいを形成することに成功しました。
つまり、モズの早贄の意味とは、単なる飢えをしのぐ食料の確保にとどまりません。過酷な冬を乗り切り、春の繁殖競争を制して自身の遺伝子を後世へ残すための「求愛歌のドーピング装置」として機能していたのです。