世界一長い曲はなぜ639年?ギネス記録の真相と2026年の現在地
世界一長い曲はなぜ639年?ギネス記録の真相と2026年の現在地について見逃せない 注意点を分かりやすい構成で解説いたします。
ギネス世界記録において「最も演奏時間の長いパイプオルガン曲」として記録され、音楽ファンのみならず世界中のメディアを驚愕させ続けているのが、アメリカの前衛音楽家ジョン・ケージ(John Cage, 1912-1992)が作曲した『Organ²/ASLSP』です。
タイトルの後半にある「ASLSP」は、「As SLow aS Possible(可能な限り遅く)」という演奏指示の頭文字を取ったもの。もともと1985年にピアノ曲として書かれ、1987年にオルガン曲へと編曲された本作の楽譜は、わずか8ページしかありません。通常テンポで弾けば20分から30分程度で終わる小品です。しかし、ケージは楽譜のテンポ指定について「演奏可能な極限まで遅く」としか指示を残しませんでした。
1992年にケージが急逝した後、ドイツのオルガニストや哲学者、音楽学者たちが集い、「オルガンという楽器において『可能な限り遅く』とは一体どれほどの時間を指すのか」という真剣な議論が交わされました。ピアノと異なり、オルガンはパイプに風を送り続ける限り、理論上は永遠に音を伸ばし続けることができます。そこで導き出された結論が、「楽器の物理的寿命と教会の歴史が許す極限=639年」という途方もないスケールでした。
なぜ中途半端にも思える「639年」なのか。その理由は、演奏の舞台となったハルバーシュタット聖ザンクト・ブルカルディ教会(聖ブルカルディ廃教会)の土地が持つ歴史にあります。かつて同地には、1361年にゴシック様式の画期的な大型パイプオルガン(ニコラウス・ファーバー製作)が設置されました。これが現代的な鍵盤配置を持つパイプオルガンの発祥とされています。プロジェクトが具体的に立ち上がった1995年がその設置から634年目にあたり、演奏開始となる2001年を基準として「過去の歴史の長さ(639年)を未来へと反転させて演奏しよう」という構想が固まったのです。
開始年はジョン・ケージの生誕89年にあたる2001年9月5日。そこから639年を足すと、演奏終了予定は西暦2640年となります。人類が宇宙進出を果たしているのか、国家の枠組みがどう変わっているのかすら分からない未来へ向けた、壮大なタイムカプセルが現在も稼働しています。