『シテール島への船出』は出発か帰路か?ルーヴル名画の真相と男女の心理
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ヴァトーが遺したシテール島の絵画には、現存する2つの主要バージョンが存在します。1作目は1717年に王立アカデミーへの正会員提出作品として納められたパリ・ルーヴル美術館版。そして2作目は、その完成度の高さに惚れ込んだ友人の大収集家ジャン・ド・ジュリエンヌの依頼により、1718年から1719年頃に制作され、のちにプロイセン王フリードリヒ大王のコレクションとなったベルリン・シャルロッテンブルク宮殿版です。
両者を比較すると、ヴァトーがわずか1〜2年の間にどのような意図で構図を再構成したのかが明瞭に浮かび上がります。
項目ルーヴル美術館版(初版)シャルロッテンブルク宮殿版(第2版)編集部の見解・評価制作年・目的1717年(王立アカデミー提出作品)1718〜1719年頃(個人コレクター向け注文)アカデミー向けは詩情重視、第2版は顧客嗜好に合わせた華美な仕上げ。画面サイズ縦129cm × 横194cm縦130cm × 横192cmほぼ同規格だが、細部の構図密度はベルリン版が格段に高い。ヴィーナス像の描写胸像(ヘルマ風石柱)、控えめで静謐全身像、弓矢を奪われたキューピッドが絡む第2版では神話的・古典的モチーフがより具現化され分かりやすい。キューピッドの数約8〜10体(舟の周辺を旋回)20体以上(画面全体に乱舞)第2版はロココ特有の祝祭感と装飾性が圧倒的に増大している。船の装飾と帆帆はなく、軽やかな天幕のみ巨大なマストと赤い帆が追加第2版は「これから出港する船」としての物理的実在感が強化。鑑賞者の受ける情感黄昏の哀愁、繊細な心理の揺らぎ明るい祝祭、明確なエロティシズム純粋な芸術的評価ではルーヴル版、華麗さではベルリン版に軍配。
シャルロッテンブルク宮殿版は、ルーヴル版で曖昧だった部分をあえて明確に描き直した「サービス精神に満ちた決定版」と言えます。しかし、多くの美術史家がルーヴル版を至高の傑作と評するのは、ルーヴル版に漂う「言葉にできない物悲しさ」や、水彩画のように薄く重ねられた絵具の透明感が、画家の魂の震えをダイレクトに伝えているからです。