ショックの5P完全攻略|覚え方と血圧低下を待たない現場の判断術
ショックの5P完全攻略|覚え方と血圧低下を待たない現場の判断術の見逃せないポイントをわかりやすく整理しました。
ショックとは、単に「血圧が低下した状態」を指す言葉ではありません。医学的な定義におけるショックとは、「生体の組織や臓器への血流(組織灌流)が著しく減少し、細胞が必要とする酸素や栄養素を供給できなくなった急性循環不全状態」を指します。この細胞レベルの飢餓状態が進行した際に外見上現れる代表的な所見が、19世紀末に外科医バルデンホイエル(Bardenheuer)が提唱した「ショックの5P」です。
英語の頭文字「P」から始まるこれら5つの徴候は、循環血漿量の減少や心ポンプ機能不全に対し、生体が生命維持のために発動する交感神経系の代償反応と、その代償が破綻した結果生じる症状群です。
1つ目の「蒼白(Pallor)」は、脳や心臓といった生命維持に直結する重要臓器への血流を優先するため、末梢血管が激しく収縮することによって生じます。皮膚表面の毛細血管床から血液が引くことで、顔面や四肢末端が陶器のように白くなります。このとき毛細血管再充満時間(CRT)は正常値である2秒未満を大幅に超えて遅延します。
2つ目の「冷汗(Perspiration)」は、交感神経終末から分泌されるアセチルコリン刺激による汗腺の過剰興奮と、末梢血管収縮による皮膚温低下が同時に起きることで出現します。冷たく湿った皮膚(cold clammy skin)は、交感神経が限界まで緊張している生体アラートそのものです。
3つ目の「虚脱(Prostration)」は、中枢神経系への血流低下と代謝性アシドーシスの進行に伴い、骨格筋のトーヌス(緊張)が維持できなくなった状態です。患者は全身の脱力感を訴え、自力で体位を保つことが困難になります。
4つ目の「脈拍触知不能(Pulselessness)」は、心拍出量の激減と極度の血圧低下によって、橈骨動脈などの末梢動脈で脈波を捉えられなくなる状態です。一般に橈骨動脈が触知できなくなるラインは収縮期血圧80mmHg未満、大腿動脈が触知不能となるのは70mmHg未満、頸動脈すら触れなくなるのは60mmHg未満が目安とされています。
5つ目の「呼吸不全(Pulmonary deficiency / 呼吸促迫)」は、末梢組織の低酸素状態によって乳酸が蓄積し、代謝性アシドーシスに陥った生体が、呼吸によって炭酸ガスを呼出して酸塩基平衡を補正しようとする代償機構(クスマウル呼吸様のリズム変化)や、ショック肺(ARDS)への移行兆候として現れます。