開高健の言葉が魂を揺さぶる理由|戦場と釣りに生きた文豪の全真実

話題沸騰中の 開高健の言葉が魂を揺さぶる理由|戦場と釣りに生きた文豪の全真実について、多角的な視点をご紹介しています。

開高健という表現者の本質を決定づけた最大の転機は、1964年のベトナム戦争従軍です。朝日新聞社の臨時特派員として戦乱渦巻く南ベトナムへ渡った彼は、安全な後方基地からのレポートに満足せず、最前線の兵士たちと泥水にまみれる過酷なパトロールに同行しました。そして1965年2月14日、サイゴン北西のゴム園地帯において、南ベトナム軍約200名とともにベトコン(南ベトナム解放民族戦線)の猛烈な包囲攻撃に遭遇します。

頭上を飛び交う無数の銃弾、吹き飛ぶ四肢、耳をつんざく爆裂音の中で、開高は湿った熱帯の土に顔を押し付け、死を覚悟しました。部隊約200名のうち生還できたのはわずか17名という凄惨な戦闘であり、同行のジャーナリストや兵士の多くが命を落とすなか、彼が生きて帰還できたのは文字通りの奇跡でした。手記や当時の現地レポートでも語られている通り、生と死が紙一重で反転する瞬間の凄まじい匂いと恐怖は、彼の網膜と精神の深層に消えない焼き印を刻みつけました。

この極限体験から生まれたのが、1968年に毎日出版文化賞を受賞した長編小説『輝ける闇』です。従来の戦争文学のような政治的イデオロギーや英雄主義はそこには一切ありません。眼前で失われていく命の無意味さ、生者の内側に残される冷え冷えとした虚無感、そして生き残ってしまったことに対する重いサバイバーズ・ギルト(生存者の罪悪感)が、冷徹にして詩情豊かな文体で記録されています。「見届け、書き残す」という作家としての倫理観は、この死線の記憶によって絶対的な強度を獲得したのです。

清水 千尋

清水 千尋

フード&トラベルライター

マーケティングと消費者心理のトレンドを分析し、現代のヒット商品の背景を読み解きます。

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