クールベ『世界の起源』なぜ描かれた?モデルの正体とラカンの秘密

クールベ『世界の起源』なぜ描かれた?モデルの正体とラカンの秘密の基礎知識と応用に迫る! 専門的な視点でまとめました。

美術史家たちの間で1世紀半にわたり論争の的となってきたのが、「このカンバスに横たわる女性は一体誰なのか」というモデルの身元をめぐる謎でした。長らく最有力候補とされてきたのは、アイルランド出身の女性ジョアンナ・ヒファーナンです。彼女はクールベの友人であった画家ホイッスラーの愛人であり、クールベ自身も彼女をモデルに『美しきアイルランド女(ジョー)』や『眠り』を描いていました。

しかし、ジョアンナ説には決定的な矛盾が存在していました。ジョアンナは燃えるような赤毛と透き通るような白肌を特徴としていたのに対し、『世界の起源』に描かれた女性の体毛は濃い黒髪を連想させる漆黒だったためです。美術史家たちは長年、クールベが意図的に色を変えたのか、あるいは別の女性なのかを特定できずにいました。

この歴史的ミステリーに終止符を打ったのが、2018年にフランスの文芸研究者クロード・ショップ氏が発見した歴史的史料です。小デュマ(アレクサンドル・デュマ・フィス)が作家ジョルジュ・サンドに宛てた手記の手紙を分析していた際、草稿の誤読から決定的な記述が浮上しました。手紙の一節にあった「オペラ座のケニオー嬢の最も贅沢で最も響きのある“内部”」という一文が、元パリ・オペラ座のバレエダンサーであったコンスタンス・ケニオー(Constance Quéniaux)を指していたことが判明したのです。

フランス国立図書館(BnF)が所蔵する写真家ナダールが撮影したケニオーの肖像写真と照合した結果、彼女が豊麗な黒髪と濃い眉を持っていたこと、そして何より1866年当時、発注者であるハリル・ベイの愛人であった事実が裏付けられました。152年の時を経て、名もなき記号として消費されかけていた身体が、実在した一人の自立した女性のものとして歴史の表舞台に現れた瞬間でした。

高橋 健太

高橋 健太

ライフスタイル編集者

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。

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