【外郎売全文】ふりがな・現代語訳とプロ直伝の滑舌練習法

【外郎売全文】ふりがな・現代語訳とプロ直伝の滑舌練習法の注目されている理由を専門的かつ分かりやすくまとめました。最新トレンドを一目で把握できます。

二代目市川團十郎が享保三年(1718年)に初演した『外郎売』は、早口言葉とリズミカルな啖呵(たんか)売りの技術を融合させた不朽の名作です。ここでは、日々の発声練習でそのまま音読できるよう、歴史的仮名遣いを現代の読みやすさに整えたふりがなと、段落ごとの詳細な現代語訳を完全掲載します。

第1段:名乗りと道中(冒頭のセリフ)

【原文・ふりがな】
拙者(せっしゃ)親方(おやかた)と申(もう)すは、お立合(たちあい)の中(うち)に御存知(ごぞんじ)のお方もござりましょうが、お江戸(えど)を立(た)って二十里(にじゅうり)上方(かみがた)、相州(そうしゅう)小田原(おだわら)一色町(いっしきまち)をお立(た)ち過(す)ぎなされて、円蔵寺(えんぞうじ)を左(ひだり)に見(み)下(おろ)し、道(みち)なりに行(ゆ)けば久野(くの)の橋(はし)、山道(やまみち)を登(のぼ)り降(くだ)り、箱根(はこね)八里(はちり)を跨(また)ぎ越(こ)して、相州(そうしゅう)小田原(おだわら)一色町(いっしきまち)へお出(い)でなされ。
一色町(いっしきまち)を通り過(す)ぎて、小田原(おだわら)の唐天守(からてんしゅ)を東(ひがし)へ打(う)ち見(み)て、大久保(おおくぼ)の宿(しゅく)を御立(おたち)、東海道(とうかいどう)を下(くだ)り坂(ざか)、大磯(おおいそ)・小磯(こいそ)の宿(しゅく)を過(す)ぎ、戸塚(とつか)を離(はな)れて品川(しながわ)へ至(いた)る。

【現代語訳】
私どもの親方と申しますのは、ここにお集まりの皆様の中にもご存じの方がいらっしゃるかもしれませんが、江戸を出発して二十里(約80km)ほど上方(関西方面)へ向かった相模国小田原の一色町を通り過ぎ、円蔵寺を左手に見下ろしながら道なりに進んで久野の橋を渡り、山道を上り下りして箱根八里の険しい峠を越えた先の小田原一色町へお越しください。一色町を通り過ぎ、小田原城の天守閣を東に眺め、大久保の宿場を立って東海道の下り坂を進み、大磯・小磯の宿場を通り、戸塚を過ぎて品川までやってまいりました。

第2段:薬の由来と「透頂香」の拝領

【原文・ふりがな】
これよりはお馴染(なじ)みの、薬(くすり)の名高(なだか)き外郎(ういろう)、薬(くすり)の言(い)われを申(もう)し上(あ)げ奉(たてまつ)らん。
そもそもこの薬(くすり)は、我(わ)が朝(ちょう)の始祖(しそ)、神農(しんのう)の直伝(じきでん)にして、異国(いこく)より伝来(でんらい)せし霊薬(れいやく)なり。
元来(がんらい)、我(わ)が祖先(そせん)・外郎(ういろう)宇野円斎(うのえんさい)が、大明国(だいみんこく)の主(あるじ)、洪武帝(こうぶてい)の世(よ)に、文武(ぶんぶ)の徳(とく)を顕(あらわ)し、この妙薬(みょうやく)を賜(たまわ)りてより、代々(だいだい)家伝(かでん)としてその秘法(ひほう)を伝(つた)う。
帝(みかど)の都(みやこ)に上(のぼ)り、天子(てんし)に拝謁(はいえつ)し奉(たてまつ)れば、冠(かんむり)の隙(すき)より光(ひかり)を放(はな)ち、帝(みかど)大(おお)いに感(かん)じ給(たま)ひて、「透頂香(とうちんこう)」という名(な)を賜(たまわ)る。
即(すなわ)ち、頂(いただき)を透(す)かす香(かお)りと書(か)きて、透頂香(とうちんこう)と申(もう)す。ひらがなにて「ういろう」と名付(なづ)けたるは、我(わ)が祖先(そせん)の官位(かんい)なり。

【現代語訳】
これよりは皆様お馴染みの、名高い妙薬「外郎」の由来を申し上げましょう。そもそもこの薬は、医薬の祖である神農から直接伝えられ、外国より渡来した奇跡の霊薬でございます。我が祖先である外郎宇野円斎が、明国の皇帝・洪武帝の時代に文武両道に優れた功績を残してこの薬を授かって以来、代々秘伝として製法を守り継いでまいりました。日本の朝廷に参上し天皇に謁見した際、冠の隙間から芳しい香りの光を放ったため、帝は大変感動され「透頂香(頭のてっぺんまで突き抜ける香り)」という名を授けてくださいました。ひらがなで「ういろう」と呼ぶのは、我が祖先が朝廷から賜った官職名(礼部員外郎)に由来するものでございます。

第3段:偽物への警告と元祖の誇り

【原文・ふりがな】
昨今(さっこん)、諸国(しょこく)津々浦々(つつうらうら)、我(わ)が薬(くすり)の看板(かんばん)を偽(いつわ)り、外郎売(ういろううり)と号(ごう)する偽物輩(にせものばら)が出没(しゅつぼつ)すと雖(いえど)も、元祖(がんそ)本家(ほんけ)は相州(そうしゅう)小田原(おだわら)の一色町(いっしきまち)、円蔵寺(えんぞうじ)の隣(となり)、梅(うめ)が枝(え)の屋敷(やしき)、八馬(はちま)の薬舗(やくほ)を本舗(ほんぽ)と心得(こころえ)たまえ。

【現代語訳】
近頃、全国津々浦々で我が家の看板を騙り、「外郎売」と名乗る偽者が横行しておりますが、本物の元祖は相模国小田原の一色町、円蔵寺の隣にある梅の枝の屋敷、八馬の薬舗こそが本拠地であるとお見知りおきください。

第4段:驚くべき薬効と弁舌の冴え

【原文・ふりがな】
まずこの薬(くすり)の効能(こうのう)を申(もう)し上(あ)げ奉(たてまつ)らん。
頭痛(ずつう)・眩暈(めまい)・胸(むね)のつかえ、風邪(ふうじゃ)・霍乱(かくらん)・食傷(しょくしょう)・中(あた)ること、腹痛(ふくつう)・霍乱(かくらん)・脚気(かっけ)の類(たぐい)、一切(いっさい)の諸病(しょびょう)に奇異(きい)の霊験(れいげん)あり。
取(と)り分(わ)け、胃腸(いちょう)を温(あたた)め、気力(きりょく)を増(ま)し、痰(たん)を切(き)り、喉(のど)の通(とお)りを良(よ)くするに妙(たえ)なり。
只今(ただいま)はこのように弁舌(べんぜつ)さわやかに、立(た)て板(いた)に水(みず)を流(なが)すが如(ごと)く申(もう)し立(た)て候(そうろう)も、ひとえにこの薬(くすり)の奇特(きどく)にあらずや。
もし疑(うたが)わしく思(おぼ)し召(め)さば、まず一粒(ひとつぶ)召(め)し上(あ)がってみなされ。
舌(した)の上(うえ)に載(の)せ、喉(のど)へと下(くだ)せば、たちまち涼風(りょうふう)肚(はら)の中(なか)に生(しょう)じ、胸(むね)の霧雲(きりくも)晴(は)れ渡(わた)り、心気(しんき)さわやか、弁舌(べんぜつ)流暢(りゅうちょう)、言(こと)の葉(は)の滞(とどこお)りなきこと、水車(みずぐるま)の巡(めぐ)るが如(ごと)し。

【現代語訳】
まずこの薬の効き目をご説明いたしましょう。頭痛、めまい、胸のつかえ、風邪、急な吐き気や下痢、食あたり、中毒、腹痛、脚気など、あらゆる病気に対して驚くべき効き目がございます。とりわけ胃腸を温めて気力を高め、痰を切って喉の通りを劇的に良くする効果は格別です。今こうして私が流れるように爽やかに立て板に水のごとく喋り立てておりますのも、すべてはこの薬の霊験によるものに他なりません。もし疑わしいとお思いなら、まずは一粒お試しください。舌の上に乗せて飲み下せば、たちまち腹の中に涼やかな風が吹き抜け、胸の曇りが晴れ渡り、気分爽快となって言葉が淀みなく水車のように回り始めます。

第5段:怒濤の早口言葉(滑舌練習の最難関パート)

【原文・ふりがな】
さて、この薬(くすり)を服(ふく)したる上(うえ)は、舌(した)の廻(まわ)ること、如意自在(にょいじざい)。
さだだ・さだだ・さだだ・さだだ、あかさたな・はまやらわ・おこそとの・ほもよろを。
一(ひと)つへぎへぎに・へぎほしはじかみ、盆(ぼん)まめ・盆米(ぼんごめ)・盆(ぼん)ごぼう、摘立(つみた)て・摘豆(つみまめ)・つみ山椒(ざんしょう)。
貴嶺(きれ)の木(き)の幹(みき)、お茶立(ちゃた)ちょ・茶立(ちゃた)ちょ・ちゃっと立(た)ちょ・茶立(ちゃた)ちょ、青竹茶筅(あおだけちゃせん)でお茶(ちゃ)ちゃっと立(た)ちゃ。
泥鰌(どじょう)にょろにょろ・三(み)にょろにょろ、合(あ)わせてにょろにょろ・六(む)にょろにょろ。
一筋(ひとすじ)縄(なわ)には括(くく)られぬ、長(なが)の柄(え)の長柄杓(ながびしゃく)。
八枚屏風(はちまいびょうぶ)が・骨(ほね)屏風(びょうぶ)、裏(うら)表(おもて)貼(は)り替(か)え・八枚屏風(はちまいびょうぶ)。
麦(むぎ)ごみ・麦(むぎ)ごみ・三(み)麦(むぎ)ごみ、合(あ)わせて麦(むぎ)ごみ・六(む)麦(むぎ)ごみ。
あの長押(なげし)の長薙刀(ながなぎなた)は、誰(た)が長薙刀(ながなぎなた)ぞ。
向(む)こうの胡麻殻(ごまがら)は、荏(え)の胡麻殻(ごまがら)か、真(ま)胡麻殻(ごまがら)か、あれこそ本(ほん)の真(ま)胡麻殻(ごまがら)。
がらぴい・がらぴい・風車(かざぐるま)。
おきゃがれ・こぼし、おきゃがれ・法師(ほうし)、昨夜(ゆうべ)もこぼして・又(また)こぼした。
たあぷぽ・たあぷぽ・ちりから・ちりから、つっぷり・つっぷり・つぶり・つぶり。
砂利(じゃり)山(やま)の・じゃら蓴菜(じゅんさい)、釣鐘(つりがね)の・じゃらんじゃらん。
歌(うた)うまい奴(やつ)が・歌(うた)うたいに来(き)て、歌(うた)うたえと申(もう)すが、歌(うた)うたいが・歌(うた)うたうだけ・歌(うた)うたえれば・歌(うた)うたうが、歌(うた)うたいほど・歌(うた)うまくなければ・歌(うた)うたい分(ぶん)だけ・歌(うた)うたわぬ。
蛙(かわず)ひょこひょこ・三(み)ひょこひょこ、合(あ)わせてひょこひょこ・六(む)ひょこひょこ。
親(おや)も嘉兵衛(かへえ)・子(こ)も嘉兵衛(かへえ)、親(おや)嘉兵衛(かへえ)・子(こ)嘉兵衛(かへえ)、子(こ)嘉兵衛(かへえ)・親(おや)嘉兵衛(かへえ)。
古栗(ふるぐり)の木(き)の・古切口(ふるきりくち)。
雨合羽(あまがっぱ)か・番合羽(ばんがっぱ)か、貴様(きさま)の脚絆(きゃはん)も・革脚絆(かわぎゃはん)、我等(われら)が脚絆(きゃはん)も・革脚絆(かわぎゃはん)。
尻取(しりと)り・引(ひ)っ括(くく)り・摺子(すりこ)木(ぎ)原(ばら)の・木(き)の端(はし)、打(う)ち寄(よ)せ・打(う)ち寄(よ)せ・摺鉢(すりばち)落(お)とし。
諸君(しょくん)見(み)たまえ・聞(き)きたまえ。
武具(ぶぐ)・馬具(ばぐ)・武具(ぶぐ)・馬具(ばぐ)・三(み)武具(ぶぐ)馬具(ばぐ)、合(あ)わせて武具(ぶぐ)馬具(ばぐ)・六(む)武具(ぶぐ)馬具(ばぐ)。
市川(いちかわ)三升(みます)の・升合(ますあ)い・升合(ますあ)い・しめ升合(ますあ)い。
田中(たなか)の棚(たな)に・小棚(こだな)のせて、小棚(こだな)に・小鍋(こなべ)のせて、小鍋(こなべ)落(お)ちて・こなべこなべ。
虎(とら)を捕(と)らえし・鳥刺(とりさ)しが、竹(たけ)束(たば)五(ご)百本(ひゃっぽん)取(と)り捨(す)てて、飛(と)び込(こ)む竹(たけ)藪(やぶ)の中(なか)。
菊(きく)・栗(くり)・菊(きく)・栗(くり)・三(み)菊(きく)栗(くり)、合(あ)わせて菊(きく)栗(くり)・六(む)菊(きく)栗(くり)。
たごの木(き)・竹(たけ)の木(き)・たご竹(たけ)の木(き)、竹(たけ)の木(き)・たごの木(き)・竹(たけ)たごの木(き)。

【現代語訳】
さて、この薬を飲んだからには、舌の回転は思いのまま自由自在です。(※ここから様々な難解な言いまわし、道具や食材の名、早口言葉、畳み掛ける言葉遊びが次々と飛び出し、薬を飲むことで口が極めて滑らかに動く様子を演じきります)。

第6段:結び(口上の締めくくり)

【原文・ふりがな】
言(い)おうは愚(おろ)か、呑(の)み込(こ)んでみやれ。
宣(のたま)うは・口(くち)の・養(やしな)い、言(い)わぬは・薬(くすり)の・毒(どく)となる。
いやはや・どうも・言い立て申(もう)すも・息(いき)が切(き)れる。
小田原(おだわら)名物(めいぶつ)の・外郎(ういろう)、透頂香(とうちんこう)は・いらっしゃりませぬか。

【現代語訳】
あれこれ言葉で説明するのは愚かなこと、まずは実際に一粒飲み込んでみてください。声を出すことは口の健康維持となり、黙っているのは薬の効能を無駄にして体に毒でございます。いやはやどうも、これほど長い口上を申し上げるとさすがに息が切れるほどです。小田原名物の外郎、透頂香をお買い求めになる方はいらっしゃいませんか!

前田 葵

前田 葵

サステナビリティ研究家

マーケティングと消費者心理のトレンドを分析し、現代のヒット商品の背景を読み解きます。

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