音便とは?言葉が変わる理由とイ・促・撥・ウ音便全4種類の見分け方
音便とは?言葉が変わる理由とイ・促・撥・ウ音便全4種類の見分け方について徹底解説いたします。専門家の見解をご確認ください。
音便を学ぶ際、多くの学習者が疑問を抱くのが「なぜ撥音便やガ行イ音便の後は『て・た』が『で・だ』に濁るのか?」という点です。例えば「書いた」は濁らないのに、「泳いだ」「読んだ」は濁音化します。
この背景には、日本語の歴史における鼻音(びおん)と有声化の密接な関係が存在します。古語の時代、「読む(yomu)」の「む」や「泳ぐ(oyogu)」の「ぐ」には強い鼻濁音の響きが含まれていました。鼻腔に息を響かせる音韻(mやn)の直後に無声の破裂音「t(て・た)」が続くと、先行する鼻音の有声性に引っ張られ、自然と「d(で・だ)」に変化してしまいます。音声学でいう「同化現象」であり、中世から近世にかけて定着した必然のプロセスでした。
さらに歴史的な視点で外せないのが、古文にのみ登場する「サ行音便」の存在です。現代共通語のサ行五段動詞は「話す→話した」「落とす→落とした」となり、音便化せず通常の連用形「し」を維持します。ところが平安時代後期から鎌倉時代の古文書や軍記物語を紐解くと、奇妙な用例が頻出します。
「申す(まうす)」が「申いて(まういて)」になったり、「落としつ」が「おといて」になったり、サ行の「し」が「い」に変化するサ行イ音便が実際に使われていました。室町時代以降、サ行の摩擦音が強まるにつれてサ行音便は衰退し、現代の東日本方言(標準語)では完全に姿を消しました。言葉の省エネ化が進む一方で、意味の識別が曖昧になる音便は淘汰されるという、言語進化のせめぎ合いを物語る貴重な痕跡です。