世界が熱狂する和菓子の深層美|五感の芸術と職人技が紡ぐ伝統の真価
世界が熱狂する和菓子の深層美|五感の芸術と職人技が紡ぐ伝統の真価に関する専門家の意見を分かりやすく解説いたします。
和菓子の最高峰に位置づけられる「上生菓子(じょうなまがし)」は、日本の二十四節気七十二候という微細な季節のグラデーションを写し取ります。春の訪れを一歩先取りする蕗の薹(ふきのとう)に始まり、爛漫の桜、初夏の青楓、盛夏の水面、秋の錦繍、そして冬枯れの静寂へ。職人は自然そのものを模写するのではなく、花びらの先端のグラデーションや一筋の刻み目によって「自然の気配」を抽象化して表現します。
その造形技術の代表格が「ねりきり(練り切り)」です。白小豆や手亡豆(てぼうまめ)を丁寧に裏ごしして炊き上げた白餡に、求肥(ぎゅうひ:白玉粉に砂糖と水飴を加えて練り上げたもの)をつなぎとして混ぜ合わせ、弱火で絶妙な硬さまで練り上げることで、滑らかで保型性に富む「練り切り餡」が生まれます。
ねりきり細工の製作現場は、まさに彫刻家の作業場そのものです。職人は手のひらの体温が餡に移って艶が失われないよう、信じられないほどの早業で成形を進めます。木製の「三角べら」を親指と人差し指で巧みに操りながら、わずか数秒で菊の花びらの段差を刻み込み、特殊な細工鋏で餡の表面をミリ単位でつまみ上げて細やかな毛並みや羽を表現します。道具はシンプル極まりない木と布ですが、指先の圧力の加減ひとつで、露を含む花びらの瑞々しさが生まれるのです。
また、日本人の人生儀礼や年中行事も和菓子と密接に結びついています。新芽が出るまで古い葉が落ちないことから「家系が絶えない(子孫繁栄)」縁起物として端午の節句に供される柏餅、半年に一度の罪や穢れを祓い無病息災を祈る6月30日の「夏越の祓(なごしのはらえ)」に食される三角形の水無月(みなづき)など、日本人は季節の節目ごとに和菓子を介して自然への感謝と祈りを捧げてきました。