京都・嵯峨「広沢の池」の深層|四季の絶景と鯉揚げの裏側を現場ルポ

京都・嵯峨「広沢の池」の深層|四季の絶景と鯉揚げの裏側を現場ルポに関する主要なデータを詳しく解説いたします。

初冬の寒風が吹き抜ける12月上旬、広沢の池では嵯峨野の冬の訪れを全国に伝える一大行事、名物の「鯉揚げ(こいあげ)」が繰り広げられます。この時期、満々と水を湛えていた池は底を露わにし、長靴を履いた漁業者たちが泥に足を取られながら巨大な網を引く光景が、地元の新聞街頭ニュースや全国報道を賑わせます。

広沢の池の水抜きは、単なる減水や水害対策ではありません。池の管理者や養殖関係者によって行われる合目的的・循環的な農水産業の営みです。毎年4月、池には鯉やフナ、モロコなどの稚魚が放流されます。広沢の池は東西南北約300メートル、最深部でも約1.5メートル前後の比較的浅い温水ため池であり、豊かなプランクトンと穏やかな水温に恵まれて魚たちは丸々と成長します。

そして11月下旬から樋門を開いて徐々に池の水を抜いていき、12月上旬の指定日に一斉に網を入れて水揚げを行います。泥の中から引き揚げられた鯉は、冬の味覚「鯉こく」や「あらい」用としてその場で直売され、近隣住民や料亭の料理人たちが列を作って買い求めます。この風物詩の時期、池の西南畔に鎮座する「児神社(ちごじんじゃ)」前には魚の計量所が設けられ、独特の活気に包まれます。

また、水抜き(池干し)の理由には、養殖の収穫以外に極めて重要な水環境保全の目的が含まれています。水を完全に抜き、池底のヘドロを冬の冷気と直射日光(紫外線)に晒すことで、堆積した有機物を好気的に分解・酸化させ、翌年の水質悪化や富栄養化を未然に防ぐ土壌殺菌作用をもたらしています。2010年に農林水産省の「ため池百選」に選定された背景には、1000年以上にわたり農業用水の供給と淡水漁業、そして自浄作用を巧みにかみ合わせてきた地域共同体の知恵が存在しているのです。

橋本 菜々子

橋本 菜々子

トレンドリサーチャー

グルメと旅を愛するフリーライター。全国各地の隠れた魅力を独自の視点から紹介します。

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