ブルーボーイ事件とは?性転換手術裁判の真相と判決が遺した光と影

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なぜ警察と検察は、患者本人が強く望んで受けたはずの手術に対して、あえて刑事罰のメスを入れたのでしょうか。そこには、優生保護法違反の理由として表向き掲げられた法的根拠と、当時の社会情勢による治安管理の要請という「二重の構図」が横たわっていました。

最大の背景は、1958年に全面施行された「売春防止法」の限界でした。同法第2条において、売春は「対価を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と反買を行うこと」と定義されていましたが、当時の司法解釈では「性交」は男女間の性器結合を前提としていました。つまり、戸籍上男性であるブルーボーイが街頭で性的なサービスを提供して金銭を得ていても、当時の売春防止法では検挙・処罰することが法的に極めて困難だったのです。

1964年の東京五輪開催に伴い、国際都市としての体面を保つために「街の風紀浄化」を徹底していた警察当局にとって、法網をかいくぐる彼女たちの存在は頭の痛い懸案事項でした。そこで警察が目をつけたのが、「手術を行って彼女たちを女性化させている医師」を叩くという別件逮捕の手法でした。当時の優生保護法第28条には「何人も、この法律の規定によつて行う場合を除く外、生殖器を不能にする手術を行つてはならない」という厳しい規定があり、これに違反した者は1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処すと定められていたのです。

1967年から始まった東京地方裁判所の公判では、被告となったブルーボーイ事件の医師と検察側による激しい法廷闘争が展開されました。

被告側の医師は、「訪れた患者たちは、自身の身体と心の不一致に極限まで苦しみ、自殺を図る寸前の深刻な精神状態だった。陰茎と睾丸を切除して女性としての外観に近づけることは、彼女たちの命を救い、社会に適応させるための正当な医療行為である」と主張。刑法35条が定める「正当業務行為」に該当し、違法性阻却事由としての医療行為が成立するため無罪であると一貫して訴えました。

一方の検察側は、「客観的な医学的適応性を欠いたまま、風俗営業に従事する者たちの要望に応じて巨額の手術報酬を得ていた利欲的犯行である。健常な生殖機能を不可逆的に破壊する行為は、社会倫理に反する明白な優生保護法違反だ」と断罪。法廷には手術を受けた当事者たちが証人として召喚され、検察官や裁判官から「手術を受けて本当に幸福になったのか、それとも不幸になったのか」「後悔していないか」という、個人の主観的幸福を司法が生々しく品定めする異様な尋問が繰り返されました。

小林 直樹

小林 直樹

トレンドリサーチャー

シンプルで洗練された住まいづくりとインテリアコーディネートのアイデアを提案しています。

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