なぜ座る時は左足から?武士の生死を分けた「左座右起」の真相

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武士の礼儀作法としての歴史を遡ると、左座右起の成立には明確な物理的根拠が存在します。武士は例外なく、腰の左側に大小二本の刀を差す「帯刀(たいとう)」の状態で生活していました。右利き・左利きを問わず、武士社会の作法として刀は必ず左腰に帯びる定めとなっていたのです。

もし仮に、右足から後ろに引いて正座しようとすると何が起きるでしょうか。右膝を先に床へ落とすと、左膝が前方に残ります。この体勢では左腰の刀の鞘(さや)が後方に跳ね上がり、床や周囲の調度に当たって大きな音を立ててしまうばかりか、刀の柄(つか)が不自然に前へ突き出てしまいます。これはいらぬ挑発とみなされるか、あるいは柄を相手に奪われかねない致命的な隙を生む所作でした。

一方で、左足から引いて着座する場合、左膝が先に床に着くため、左腰に差した刀は自然と体に密着したまま垂直に近く保たれ、鞘が床に打ち付けられる事故を防ぐことができます。さらに決定的なのは、居合道や剣道の視点から見た実戦的な即応性です。

歴史的な武道古伝書の記述や古流剣術の師範らが語る伝承によれば、左膝を地につけ、右膝を軽く立てた状態は「居合の初動(片膝立ちの構え)」そのものです。右手が完全に自由であり、右足が前に出ているため踏ん張りが利き、もし正面や死角から不意の奇襲を受けたとしても、電光石火の速さで右手で刀を抜き放ち、前進しながら一刀のもとに斬り伏せる迎撃態勢をとることができます。

反対に、立ち上がるときに右足から踏み出すのも同一の理合です。右足から一歩を踏み出すことで、重心を瞬時に前方へ送り出しながら身体を起こすことができ、移動と同時にいつでも抜刀・攻撃に移ることが可能です。つまり左座右起とは、「礼を尽くして座りながらも、心の内では一瞬の隙も作らず有事に備える」という武士の危機管理の極致から生み出された作法なのです。

中村 さくら

中村 さくら

マネー&キャリアエディター

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。

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