天下人が奪い合った名香「蘭奢待」最新研究で迫る香りと切痕の謎

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長さ156センチ、重さ約11.6キロ。巨大な沈水香木「黄熟香」の表面には、過去に刃が入れられた複数の切痕が存在する。通称「蘭奢待」と呼ばれるこの宝物は、文字の中に「東」「大」「寺」の三文字を巧みに隠した雅名を持つ。近年の非接触3次元光計測や超高解像度マイクロスコープ解析により、それらの切り口に残る刃筋の角度や深さが精密に割り出された。

長年、俗説として語られてきた「信長による強引な乱切り」の痕跡。しかし最新のデジタル復元画像が明かしたのは、驚くほど慎重かつ端正な手さばきだった。木目を壊さぬよう最小限の厚みで薄く削ぎ落とされた痕跡は、力任せの略奪などではなく、儀礼的な配慮を極限まで尽くした結果であることを物語る。また、極微量の揮発成分を捕集する最新のガスクロマトグラフィー分析では、東南アジア産のジンチョウゲ科樹木特有のセスキテルペン化合物が、千数百年を経た今なお内部深層で凝縮されたまま生きている事実が実証された。外気から遮断された正倉院の微小環境が、奇跡の保存状態を保ち続けていたのだ。

山口 彩花

山口 彩花

写真家・フォトエディター

グルメと旅を愛するフリーライター。全国各地の隠れた魅力を独自の視点から紹介します。

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