『でっちあげ』は実話か?福岡殺人教師事件の恐るべき真相と現在
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新潮文庫に収められた福田ますみ氏の著書『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』を読んだ者の多くが、まず抱くのは「これは本当に現実の出来事なのか」という戦慄に満ちた疑問です。創作サスペンスを遥かに凌駕する悪意の連鎖に対し、どこまでが実話でどこからが誇張なのかと疑う声はネット上でも後を絶ちません。しかし、綿密な裁判記録や関係者の証言を突き合わせる限り、描かれた事件の経緯は冷徹なまでの客観的事実に基づいています。
発端は2003年、福岡市立春吉小学校の小学3年生の男子児童の母親が学校へ寄せた激しい抗議でした。母親の主張は「担任教諭が児童の曾祖父がアメリカ人であることを理由に『お前には穢れた血が流れている』と差別発言を繰り返した」「耳を引っ張って軟骨を損傷させ、出血させた」「ミシュランのタイヤ人形のように腫れ上がるまで殴打した」といった、常軌を逸した凶悪な体罰の数々でした。
この告発に飛びついたのが朝日新聞をはじめとする大手新聞各社や週刊誌、ワイドショーでした。裏付け取材はおろか、教諭本人へのまともな弁明機会の付与すら行われないまま、教諭は「史上最悪の殺人教師」と名指しされ、日本中から凄まじいバッシングを浴びることになります。母親の涙の告発を鵜呑みにした弁護団は、異例ともいえる500人規模の「大弁護団」を結成し、市と教諭を相手取って民事訴訟を起こす事態へと発展しました。
だが、法廷で開かれた証拠の扉は、世間が信じ込まされていた物語を根底から粉砕することになります。教諭が児童のルーツを知ったのは母親の抗議以降であったこと、耳の傷口から出血した痕跡など病院カルテに一切存在しなかったこと、さらには同級生や他の保護者たちから「先生がそんな暴力を振るうはずがない」「男児に怪我などなかった」という証言が相次いだのです。熱狂の渦の中で作られた「凶悪犯」の虚像は、司法の場で白日の下に晒されることとなりました。