近松門左衛門の代表作徹底解剖!なぜ心中物は元禄を熱狂させたのか

話題沸騰中の 近松門左衛門の代表作徹底解剖!なぜ心中物は元禄を熱狂させたのかについて、多角的な視点を整理して公開しています。

インターネット上の言説や解説サイトにおいて、「近松門左衛門は心中を過度にロマンチックに美化し、若者を死へと煽動した無責任な作家だった」という短絡的な見解が散見されます。しかし、一次資料や同時代の証言を精査すると、この見方は決定的な誤解であることが分かります。

近松の劇作姿勢を解き明かす最大の鍵は、儒学者・穂積以貫が近松からの直談を記録した『難波土産(なにわみやげ)』に記されている虚実皮膜論(きょじつひまくろん)にあります。

近松は劇作の本質について次のように喝破しています。「芸というものは、実(事実)と虚(嘘・虚構)との皮膜の間にあるものだ。世人が真実を好むからといって、現実の通りに作れば下品になり、観客は興醒めする。かといって絵空事ばかりを並べ立てれば、誰も共感しない。真実のようで真実でなく、虚構のようで虚構でない、そのわずかな境界線(皮膜)にこそ芸術の慰みがある」。

近松は心中を賛美・推奨するために筆を執ったのではありません。金銭至上主義に傾斜する大坂の商業社会で、借金や世間体に追い詰められ、生きる権利を剥奪された人間が最後に残された「自己決定」として死を選ぶ――その残酷な現実(実)を、叙情詩のような美しい詞章と人形の身体表現(虚)で包み込むことによって、死者の尊厳を鎮魂しようとしたのです。現実の凄惨な死をそのままグロテスクに見せるのではなく、虚実の皮膜において哀悼のドラマに昇華させた点にこそ、近松の真意がありました。

高橋 健太

高橋 健太

ライフスタイル編集者

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。

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