ひもの屋が閉店ラッシュの真相|現在も営業中の店舗と運営会社を独自調査
話題沸騰中の ひもの屋が閉店ラッシュの真相|現在も営業中の店舗と運営会社を独自調査について、主要な情報を整理して公開しています。
「仕事帰りに同僚と立ち寄り、伴助サバをつまみに日本酒を酌み交わすのが定番だった」「昼のランチでご飯を何杯もお代わりした記憶がある」――多くのファンに惜しまれながら、各地の「ひもの屋」が相次いでシャッターを下ろした背景には、単なる流行の移り変わりでは片付けられない、外食産業特有の過酷な構造変化が存在します。業界関係者への取材と外食市場のデータから、決定打となった3つの構造的要因が浮き彫りになりました。
第1の要因は、水産資源の減少と歴史的な円安に伴う「原材料コスト」の急騰です。「ひもの屋」の代名詞といえば、脂の乗った巨大な縞ほっけや金目鯛、ブランド干物として知られる福島県いわき市の「伴助(ばんすけ)」など、質の高い干物でした。しかし、これら主力の魚種は世界的な海洋環境の変化や漁獲枠制限、さらに近年の急激な円安によって仕入れ価格が2010年代と比較して1.5倍から2倍近くまで跳ね上がりました。看板メニューである以上、魚のサイズを小さくすれば顧客離れを招き、価格を過度に引き上げれば「手頃で旨い大衆酒場」というアイデンティティが崩壊するという、極めて厳しいジレンマに直面したのです。
第2の要因は、「炭火焼き」業態が抱えるオペレーション負荷とエネルギーコストです。ガスグリラーではなく本物の炭火を使い、職人気質の焼き手がじっくりと遠赤外線で焼き上げるのが同店の最大の強みでした。しかし、このこだわりこそが平時の固定費を重く圧迫します。炭火焼きは調理に10〜15分程度の時間を要するため回転率が上がりにくく、焼き台に常時熟練スタッフを張り付ける必要があります。さらに、炭火焼き専用ダクトの維持管理費や、ウクライナ情勢以降に高騰した木炭・備長炭の燃料費、店舗排気設備の定期メンテナンスコストが重くのしかかりました。
第3の要因として見逃せないのが、競合環境の激変と「昼夜の需要構造シフト」です。2010年代後半から、株式会社越後屋などが手掛ける「しんぱち食堂」に代表される、券売機導入・カウンター中心・小ポーションかつ短時間提供を特徴とする「ファスト干物定食」チェーンが急速に台頭しました。かつて「ひもの屋」が独占していた「美味しい焼き魚でご飯を食べる」という日常需要をファスト業態に奪われ、夜の宴会需要がコロナ禍以降に構造的な縮小を見せるなかで、広い客席面積を誇る大箱居酒屋スタイルの維持が困難になったのです。