江戸川乱歩『芋虫』なぜ発禁に?狂気のあらすじと結末を徹底考察

江戸川乱歩『芋虫』なぜ発禁に?狂気のあらすじと結末を徹底考察についての疑問解決ガイドをご紹介します。

本作の主人公は、戦争で両手両足を切断され、顔面の半分を激しい火傷で失い、耳も聞こえず口も利けない「生ける肉塊」となって帰還した須永中尉と、その妻である須永時子です。世間は須永を名誉の負傷を遂げた「軍神」と称え、時子を彼に尽くす「貞淑な美徳の妻」と賛美していました。しかし、世間から隔絶された薄暗い自宅の座敷で繰り広げられていたのは、神聖な看護などとは程遠い、人間の根源的な本能が渦巻く地獄でした。

須永に残された感覚は、視覚・触覚・味覚、そして肥大化した食欲と性欲のみ。時子は当初、献身的に夫の介護に励むものの、やがて逃げ場のない閉鎖空間で精神の均衡を崩していきます。言葉を発せず抵抗もできない夫に対し、食事を与えたり奪ったりする支配欲、自らの肉体を与えて歓楽に溺れる加虐心(サディズム)と被虐心(マゾヒズム)が複雑に絡み合い、二人の関係は急速にグロテスクな共依存へと変貌していきました。

物語のクライマックスにおいて、時子のサディズムは制御不能な暴走を迎えます。激しい情欲と憎悪の昂ぶりのなか、時子は抵抗できない夫の唯一残された外界との窓口である両目を鋭利な針(笄)で突き刺し、視力を完全に奪ってしまうのです。自らの凶行の凄まじさに正気を取り戻した時子は激しい恐怖と後悔に打ち震えます。

暗黒の世界に閉じ込められた須永中尉は、残された首を懸命に動かし、床の上に鉛筆をくわえて拙い文字を遺します。そこに記されていたのは、妻を激しく責め立てる言葉ではなく、ただ一言、「ユルシテ」という哀切を極めた懇願でした。その夜、須永は芋虫のように這いながら庭の古井戸へと向かい、自ら身を投げて命を絶ちます。井戸の底に沈んだ夫の遺骸を見下ろし、時子が絶望と慟哭に包まれる場面で物語は幕を閉じます。

山崎 陸

山崎 陸

ガジェット&アプライアンスライター

最新のテクノロジーと生活デザインの融合をテーマに、国内外の最新トピックを発信しています。

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