椎名林檎『幸福論』完全解剖|悦楽編の激変と今明かされるデビュー秘話
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楽曲を音楽理論の観点から分析すると、本作のコード進行には日本のポップス史が培ってきた「黄金律」と、オルタナティブなひねりが同居しています。キーはEメジャーを基調としながら、Amaj7やB7、G#m7といった浮遊感のあるテンションコードを巧みに配置。特にサビ直前で見せるダイナミックな展開は、亀田誠治が弾くメロディアスなウォーキングベースと相まって、聴き手の感情を一気に昂揚させます。
さらに注目すべきは、8cmおよび12cmシングルに収録されたカップリング曲『すべりだい』の存在です。哀愁漂うアコースティックギターと、思春期の残酷なまでの別れを描いたこの楽曲は、ファンの間では「『幸福論』以上の隠れた最高傑作」と評されることも少なくありません。光に満ちた『幸福論』の裏面として、影を濃密にたたえた『すべりだい』が寄り添うことで、シングル1枚が完全な文学作品としての陰影を獲得しています。
また、デビュー当時に制作されたミュージックビデオ(MV)のロケーションも語り草となっています。主に東京都世田谷区周辺の住宅街や公園、雑居ビルの屋上などで撮影された映像には、のちの看護婦姿や和服といった過剰なアイコンを纏う前の、等身大の椎名林檎が記録されています。飾り気のないTシャツ姿で街を歩き、カメラを真っ直ぐに見つめるその佇まいには、すでに時代のカリスマとなる圧倒的な眼光が宿っていました。