名曲『夢追い酒』大ヒットの理由|渥美二郎の流し時代から現在

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渥美二郎の歌声に宿る独特の哀感は、決してスタジオで後天的に作られたものではありません。彼の原点は、16歳の若さで身を投じた東京の下町・北千住の「流し」にあります。ギター1本を抱え、ネオン街の縄のれんをくぐっては酔客のリクエストに応える日々。渥美二郎の流し経歴は、およそ8年もの長きに及びました。

当時の回想手記によると、客から浴びせられる罵声や冷遇は日常茶飯事であり、時には千鳥足の客にギターを叩き割られそうになったことすらあったといいます。1曲歌って手渡される百円玉を握りしめながら、彼は酒場に集う人々の表情をつぶさに観察し続けました。会社で失脚したサラリーマン、夜の街でしか生きられない女性、失恋の痛手を酒で紛らわせようとする若者――そこには教科書には載っていない人間の「むき出しの情念」が渦巻いていたのです。

「お客様が求めているのは、上手い歌ではなく、自分の痛みを肩代わりしてくれる声だった」と、後年のインタビューで本人が述懐している通り、流し時代に培った「聴き手の心に寄り添う引力」こそが、演歌歌手・渥美二郎の骨格を形成しました。

その才能を認めた遠藤実の門下となり、芸名を改めて挑んだ『夢追い酒』の成功は、まさに執念の結実でした。有線チャートの上昇とともにテレビ番組への出演が急増し、1979年末には第30回NHK紅白歌合戦への初出場を達成。煌びやかなNHKホールのステージで、苦節の時代を共にしたアコースティックギターを背に歌い上げた姿は、下積み時代の仲間だけでなく、同じように過酷な日常を耐え忍ぶ全国の労働者層に強烈な勇気を与えました。

鈴木 陽菜

鈴木 陽菜

テックライター兼ウェブディレクター

暮らしを豊かにする便利アイテムや時短アイデアを中心に、実用的な情報をお届けします。

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