九龍城に住んでいた人の真実|東洋の魔窟と呼ばれた超巨大スラムの日常
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建築基準法も都市計画も完全に無視して建て増しを続けた結果、九龍城砦は10階〜14階建てのビル数百棟が隙間なく連結した、前代未聞の立体高層迷宮と化しました。ここで生じる最大の疑問が、九龍城内部構造と電気水道事情がどのように維持されていたのかという点です。
砦の電気と水道は、行政の供給と民営の商魂が複雑に入り交じった驚異の自律システムで成り立っていました。
初期は外部の電線から勝手に電気を引き込む違法盗電が横行していましたが、火災リスクの増大を受けて1970年代以降は香港電力(中電)が正式にメーターを設置し、電気を供給するようになりました。頭上には無数の配線がクモの巣のように絡み合い、漏水するパイプとともに通路の天井を覆い尽くしていました。
一方、水道事情は極めて深刻でした。英領香港政府が敷設した公衆水栓は砦全体でわずか8カ所程度。数万人の需要を満たすには到底足りません。そこで住民たちは自力で地下数百メートルまで井戸を掘削し、モーターで屋上の給水タンクへ汲み上げる「私設水道会社」を立ち上げました。住民は毎月一定の料金を水道業者に支払って水を確保していましたが、地下水は塩分や鉄分を含んでいたため、飲料水は公衆水栓へ並んで汲むという重労働が日常の一部でした。
郵便配達のシステムも驚異的でした。香港郵政の配達員は、長年の経験と独自のメモを頼りに、番地すら曖昧な立体迷宮の住人ひとりひとりに郵便物を間違いなく届けていたのです。