名著『昭和16年夏の敗戦』検証|総力戦研究所の敗戦予測と開戦の真相
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なぜ模擬内閣はこれほどまでに正確な予測を導き出せたのでしょうか。その根底にあったのは、感情や願望を排した客観的数値の徹底比較でした。以下の表は、総力戦研究所が算定した基礎データおよび敗戦予測と、当時の大本営・開戦強行派が抱いていた主観的見通しを対比したものです。
分析項目総力戦研究所(模擬内閣)の算定当時の大本営・政府指導部の見通し編集部の見解・史実の検証石油・エネルギー需給南方油田を確保しても還送船団の撃沈により本土補給が途絶、2年で備蓄完全枯渇蘭印油田の早期復旧と護衛作戦により、年間数百万キロリットルを本土確保可能米潜水艦の暗号解読とレーダー配備により輸送船は壊滅。研究所の試算が完全的中。鉄鋼・工業生産力格差対米比約1対10〜20。米国の戦時動員が進めば物量差は絶望的規模へ拡大精神力と練度で補正可能。短期決戦で米国民の戦意を挫けば講和に持ち込める米国のリバティ船大量建造や航空機増産速度を過小評価。精神力では埋まらない格差。国際情勢・ソ連の動向ドイツが対ソ戦で勝利することは困難。最終段階でソ連は対日参戦に踏み切る日ソ中立条約が維持され、独ソ戦の進展次第ではソ連を講和の仲介者として利用可能大本営は最後までソ連仲介にすがり、1945年8月8日の条約破棄・電撃侵攻で破綻。最終勝敗の帰趨「日本必敗」。緒戦の戦術的勝利を戦略的勝利へ転換する道筋は存在しない「やってみなければ分からない」。緒戦で痛打を与えれば早期講和の勝機あり国家の存亡を賭けた戦争において、出口戦略(終戦構想)の欠如が破局を決定づけた。
この表が端的に示しているのは、若手官僚たちが作成したデータが「冷徹な現実」であったのに対し、指導部側の見取り図は「そうあってほしいという願望」の集積に過ぎなかったという点です。数字を直視する勇気を持たない組織がいかに悲惨な結末を迎えるか、このデータ対比は残酷なまでに雄弁です。