ハ長調とは何か?ピアノ初心者が最初に習う理由と「実は難しい」真相

ハ長調とは何か?ピアノ初心者が最初に習う理由と「実は難しい」真相について知っておくべき ポイントを厳選して解説いたします。

しかし、ここに西洋音楽史が抱える決定的なパラドックスが存在します。「白鍵ばかりだから一番やさしい」という一般的な常識は、身体運動の観点から見ると完全な間違いです。

ピアノの詩人と呼ばれたフレデリック・ショパンの手記や弟子たちの証言録(ジャン=ジャック・エーゲルディンゲル著『弟子から見たショパン』など)には、極めて象徴的な言葉が遺されています。ショパンは初学者に対し、絶対にハ長調からレッスンを始めませんでした。彼が最初に弾かせたのは、黒鍵を5つすべて使う「ロ長調(B-dur)」だったのです。

なぜショパンはハ長調を嫌ったのか。手元を見れば理由は明白です。人間の指は、親指と小指が短く、人差し指・中指・薬指が長く作られています。平坦な白鍵だけに長い中指や薬指を押し込めようとすると、手首が窮屈に固まり、親指の付け根に不自然な緊張が走ります。一方で、段差の高い黒鍵に長い3本の指を自然に乗せ、低い白鍵に短い親指と小指を置くと、手は完全にリラックスした自然なアーチを描きます。

ショパンは自著の下書きに「ハ長調の音階ほど人間の手に不自然で、均等に美しく弾くのが困難な調はない」と書き残しています。現代のSNSやYahoo!知恵袋などのコミュニティでも、「ブルグミュラーを終えた中級者になってから、ハ長調のスケールで指が転び、粒が揃わないことに絶望した」という声が数多く見られます。楽譜を見るのは最も簡単だが、美しく弾くのは最も難しい調――これこそがハ長調の知られざる素顔です。

中村 さくら

中村 さくら

マネー&キャリアエディター

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。

Share this article
Twitter Facebook Pinterest