「妾」のめかけとわらわは何が違う?同じ漢字を使う理由と身分の序列
「妾」のめかけとわらわは何が違う?同じ漢字を使う理由と身分の序列の真相や最新動向に迫る! わかりやすい言葉でまとめました。
同じ漢字を使いながら、一方は第三者を指す名詞、もう一方は自身を指す代名詞として機能する「妾」。この極端な用法の分かれ道は、漢字が誕生した古代中国の殷・周時代まで遡ります。
白川静氏の漢字学をはじめとする文字文化の歴史的記録によると、「妾」という文字は、上部の「辛」と下部の「女」が合体して成立しました。「辛」は罪人や奴隷の額に入墨を入れるための鋭利な針(ノミ)を象形した文字です。すなわち「妾」の原義は、「罪を得て入墨を施され、召使・奴隷となった女性」を意味していました。ここから派生して、古代中国の家父長制において正妻(嫡妻)に仕え、家事や夜の世話を行う「召使い兼身分の低い副妻」を指すようになります。
この「身分の低さ」「絶対的な従属関係」という原意が、日本に輸入された際に2つの異なるベクトルへと展開しました。
まず、女性の一人称である「わらわ」です。語源は頭髪を束ねずに垂らした子どもを意味する「童(わらわ)」に由来します。未熟で分別のない子どものように、「私などは取るに足らない存在でございます」と相手に対して極限までへりくだる謙譲表現として使われ始めました。このとき、「へりくだる自分=召使いのように低い身分の女」というニュアンスを漢語に当てはめる過程で、「妾」の文字が借用されたのです。
一方、婚姻関係の外に置かれた女性を指す「めかけ」は、大和言葉の「目掛け(目をかける、目をかけて愛顧する)」が語源とされています。正妻ではないものの、男性から個人的に目をかけられ扶養されている女性を指す言葉として定着しました。この存在もまた、正妻の下位に位置し、従属的な立場であることから、召使いや副妻を意味する「妾」の字がそのまま割り当てられました。
つまり、自らをへりくだって呼ぶ謙称の「わらわ」と、正妻に従属する女性を指す名詞の「めかけ」は、「主筋・正妻に対して立場が低い従属者」という古代の原義において完全に一致していたからこそ、同一の文字が当てられたのです。