なぜ登山家は指を失うのか?凍傷壊死の真相と生死を分けた生還劇
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人間の身体は、中心体温が下がり始めると、脳や心臓といった生命維持に不可欠な重要臓器を守るため、自律神経の働きによって手足の末梢血管を急激に収縮させます。この防御反応こそが、登山において指を失う最初のステップとなります。手足への血流が極端に絞られた状態で氷点下の外気に晒され続けると、組織の温度が氷点下に達し、細胞と細胞の間に鋭利な氷の結晶が形成されます。
細胞外液が凍結すると浸透圧の変化によって細胞内の水分が奪われ、細胞自体が脱水・萎縮して破壊されます。さらに恐ろしいのは、一度凍りついた部位の毛細血管内に微小な血栓(血の塊)が多発し、完全な血行停止状態(虚血)に陥ることです。酸素と栄養の供給を完全に絶たれた組織は、数時間から数日のうちに不可逆的な壊死を起こし、水分を失ってミイラのように黒変する「乾性壊疽(かんせいえそ)」へと進行します。
黒く干からびた指はすでに生体としての機能を失っており、放置すれば融解期に細菌感染を併発して敗血症を引き起こし、全身の命を脅かします。壊死した部位と健康な組織の境界線(デマケーションライン)が確定した段階で、生命を救うための最終手段として「指の切断手術」が行われるのです。