ケンとメリーのスカイライン、55年目の真実と現在地

ケンとメリーのスカイライン、55年目の真実と現在地の要点を丁寧に掘り下げてご紹介します。

日産スカイラインのCM史において、1972年9月に放映開始された「ケンとメリーのスカイライン」シリーズは、それまでの常識を覆すものであった。当時の自動車CMといえば、走行性能やスタイリングを前面に押し出し、男性ナレーターが力強く商品価値を訴求するスタイルが主流だった。しかし、このCMは違った。雄大な自然を背景に、一人の青年と一人の少女が旅をする。その映像に乗るのは、バズ(BUZZ)という名のフォークデュオによる爽やかな楽曲だった。

広告業界の関係者証言によると、この企画を推進したのは当時日産の宣伝部門で企画を担当していた若手チームだったという。彼らは「クルマを売るのではなく、クルマのある人生を売る」というコンセプトを掲げ、従来の商品訴求型から感情移入型への大胆な転換を図った。これは当時の日本の広告表現としては極めて先鋭的であり、社内でも相当な抵抗があったとされる。

ケンとメリーというキャラクター名は、スコットランドのフォークソング「The Barnyards of Delgaty」に由来するという説が有力だが、公式な記録としては明確にされていない。むしろ、日産が意図的に「国籍や背景を特定しない普遍的な若者像」として二人を設定したことが、後の分析で明らかになっている。高度経済成長の余韻が残る1970年代前半、若者たちは「自由」と「旅」に強い憧れを抱いていた。その感情を的確に捉えたことが、このCMの成功要因だった。

撮影は主に北海道や長野県の山岳地帯で行われ、ケンとメリーのロケ地として知られる美瑛町の丘や、乗鞍高原の山道などは、今でも聖地巡礼の対象となっている。映像の多くは早朝や夕暮れのマジックアワーに撮影され、その光の質感が「旅情」を際立たせた。テレビの画質が今よりはるかに粗い時代にあって、フィルムの質感と色彩設計は極めて映画的だった。

高橋 健太

高橋 健太

ライフスタイル編集者

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。

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