競走馬は本当に馬肉になるのか?引退後の行き先と流通構造の真実

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食肉流通の観点において、世間には大きな誤解があります。「競馬で負けた名馬の肉が、そのまま高級料亭の極上馬刺しとして提供されている」というイメージです。しかし、食肉流通の専門家や現場の肥育業者は「サラブレッドは本来、食肉として極めて不向きな体質である」と口を揃えます。ここには馬肉と重種馬の違いという決定的なファクターが存在します。

熊本県や長野県、福島県などで名物とされる高級な「霜降り馬刺し」の主力を担っているのは、体重が800kgから1トン近くに達する重種馬(ペルシュロン種やブルトン種、ベルジャン種との交配種など)です。これらの馬は骨太で体躯が大きく、運動を制限して穀物飼料を与えることで、筋繊維の中に豊かなサシ(脂肪)を蓄えます。これこそが、口の中でとろける甘みを生み出す馬刺しの原料です。

対照的に、サラブレッドは「軽種馬」に分類される極限のアスリートです。体重は450kgから500kg程度と細身で、走るために極限まで体脂肪を削ぎ落とされています。これが競走馬の肉は美味しくない理由に直結します。

  • 筋繊維が発達しすぎている:激しいトレーニングによって筋肉が硬く引き締まり、肉質が極めて硬化している。
  • 脂肪分(サシ)が極めて少ない:アスリート体形のため赤身の比率が高く、パサつきやすいうえに旨味となる脂質が乗りにくい。
  • 独特の鉄分臭と筋張った食感:酸素を大量に運ぶためにミオグロビンが多量に含まれ、鉄臭さや酸味が強く感じられる。

そのため、引退直後のサラブレッドがそのまま高級馬刺しとして市場に出回るケースは稀です。多くは肥育牧場へと送られ、数ヶ月から半年以上の期間、濃厚飼料を与えて脂肪をつける競走馬の肥育と屠殺の実態を経ることになります。それでも重種馬のような霜降りにはならず、加熱調理用の加工肉原料(コンビーフやソーセージの増量材)、加熱用切り落とし、あるいはドッグフードなどのペットフード原料として安価に流通するのが大半です。

中村 さくら

中村 さくら

マネー&キャリアエディター

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。

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