桃太郎はなぜ鬼退治へ?絵本が隠す略奪の真相と歴史的背景
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現代の一般的な絵本を開くと、鬼の悪行は「人里に現れて米や娘を奪う」「悪さをして人々を困らせる」といった抽象的な表現で済まされているケースが大半です。実は、現存する古い文献を遡るほど、「鬼が具体的に何をしたか」という記述は希薄になるという奇妙な事実に突き当たります。
室町時代末期から江戸時代初期にかけて成立した『御伽草子』版の桃太郎や、江戸中期の享保年間に流行した赤本(絵入り草双紙)を確認すると、桃太郎が鬼退治を決意する動機は、村人の救済ではありません。成長した桃太郎が唐突に「鬼ヶ島という所に鬼が住んでおり、金銀財宝をたくさん蓄えていると聞いた。それを取りに行って参ります」と養父母に告げる場面から始まります。
つまり、初期のプロットにおいて桃太郎を突き動かしていたのは、正義感ではなく「鬼の財宝強奪」という野心と富の獲得でした。鬼側から見れば、自分たちの領土へ前触れもなく武装集団が押し入り、暴力を振るわれた末に財産を根こそぎ奪われたことになります。
この理不尽さにいち早く着目し、痛烈な批判を浴びせたのが思想家の福澤諭吉です。福澤は教育書『福翁百話』(1897年刊行)の中で次のように喝破しています。
「桃太郎が鬼ヶ島に行きしは、鬼が我が国に悪事を働きし故にこれを懲らしめに行くという理屈なれども、鬼ヶ島に宝物ありと聞きて、これを取らんとするは盗人と同じからずや」
鬼が悪事を働いた証拠がないまま宝を奪いに行く行為は、道徳的に強盗と変わらないという指摘です。近代以前の庶民にとって、桃太郎は清廉潔白な正義の味方というよりも、力で富を勝ち取って貧民から脱出する「立身出世のアイコン」として受容されていました。